つるさき法律事務所
遺言・相続・損害保険等

神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第7章 遺留分

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第7章 遺留分
1 遺留分(いりゅうぶん)とは何か

そもそも遺産は被相続人の財産であるから,これを遺言その他の手段によりどのように処分しようとも被相続人の自由であるのが原則である。
しかし,例えば,被相続人が遺言によって全財産を赤の他人に与えてしまうようなことが認められると,被相続人の生前,被相続人の財産に依拠して生活していたような者にとっては死活問題である。
そこで,法は,被相続人の財産処分の自由と,相続人の保護とのバランスを考慮して,遺産のうちの一定割合を一定範囲の相続人が相続する権利を保障するという制度を設けている。これが遺留分制度であり,権利を保障された一定割合の取り分を遺留分という。遺留分が認められる相続人を遺留分権利者という。

2 誰が遺留分権利者か

遺留分権利者は,兄弟姉妹を除く法定相続人である。つまり,被相続人の(1)配偶者,(2)子またはその代襲者又は(3)被相続人に一番近い直系尊属のうち,相続人となる者が遺留分権利者である。
遺留分権利者は,相続人であることが前提となっているから,相続欠格,廃除,相続放棄という事由がある者は相続人たりえず遺留分権利者になれない。
上記で明らかな通り,被相続人の兄弟姉妹は遺留分権利者ではないから,兄弟姉妹のみが相続人であるケースにおいては,遺留分制度によって保護される者はおらず,被相続人は遺言等により遺産を自由に処分することができる。その結果,兄弟姉妹が全く相続を受けられないことになったとしても,法的には兄弟姉妹は保護されない。

3 誰にどのような割合の遺留分が認められるか

遺留分権利者に認められる遺留分の割合(遺留分率)は,次の通りである。

相続人となる者遺留分率
被相続人に一番近い直系尊属のみ遺留分権利者全員で遺産の3分の1
上記以外遺留分権利者全員で遺産の2分の1

遺留分権利者が複数いる場合は,上記遺留分率を,それぞれの法定相続分の割合に従ってさらに分配したものが各自の遺留分となる。よって,遺留分が認められない場合も含めて,次の類型の相続人の組み合わせごとに遺留分を具体的に示すと下の表の通りとなる。

  1. 配偶者
  2. 子またはその代襲者
  3. 被相続人に一番近い直系尊属
  4. 兄弟姉妹又はその代襲者
相続人1の遺留分2の遺留分3の遺留分4の遺留分
1のみの場合1/2
2のみの場合1/2
3のみの場合1/3
4のみの場合
1と2の場合1/41/4
1と3の場合1/31/6
1と4の場合1/2

上記1から4の類型の相続人が複数存在する場合,各自の遺留分は基本的に頭割りとなるが,嫡出子と非嫡出子とが存在する場合など例外もあるので,詳細は「相続分」の章を参照されたい。

4 具体的な遺留分の金額はどのように算出するか

各遺留分権利者の遺留分の金額は,遺留分算定の基礎となる財産の額に,各自の遺留分の割合(遺留分率)を乗じて算出することになる。

(算式)

各遺留分権利者の遺留分の金額遺留分算定の基礎となる財産の額×各自の遺留分の割合(遺留分率)

遺留分算定の基礎となる財産の額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその生前贈与した財産の価額を加えた額から,債務の全額を控除して算出する(民法第1029条)。

(算式)

遺留分算定の基礎となる財産の額相続時の遺産の価額生前贈与した財産の価額相続債務の額

ここで,生前贈与した財産とは,原則として相続開始前の1年間になされた贈与契約に限られるが(民法第1030条前段),例外的に,1年以上前の贈与でも,贈与契約の当事者双方が遺留分の侵害があることを知って贈与したときは参入される(民法第1030条後段)。
また,生前贈与が相続人に対してなされ,それが特別受益に該当する場合には,これも加算した金額が相続財産とみなされるところ(民法第903条),この条文は遺留分についても準用されるから(民法第1044条),このような特別受益に該当するような生前贈与は,相続開始の1年以上前になされたものであっても遺留分算定の基礎となる財産の額に加えられることになる。

5 遺留分の侵害額はどのように算出するか

遺留分の侵害は,遺産分割の結果相続人が最終的に手にすることができた利益が,既に述べた各遺留分権利者の遺留分の金額に満たない場合に認められ,その不足分が遺留分の侵害額である。

(算式)

遺留分の侵害額遺留分権利者の遺留分の金額遺産分割の結果その者が最終的に獲得した利益

遺産分割の結果最終的に獲得した利益は,次のように計算される。

(算式)

最終的に獲得した利益特別受益及び寄与分を考慮して決定された各相続人の相続分の額当該相続人が得ることができた特別受益当該相続人の相続債務の分担額
6 遺留分と寄与分

具体的な遺留分の金額の算出方法については前述したが,それで分かる通り,遺留分算定の基礎となる財産の額には特別受益に該当する生前贈与の金額が加算され,特別受益の金額が考慮される(民法第1044条が民法第903条を準用している)。
他方,寄与分については法律の条文上は遺留分の金額の算出過程において考慮されない(民法第1044条は民法第904条の2を準用している)。よって,相続財産の中に,特定の相続人の寄与によって増大した部分がどんなに多く含まれている場合であっても,遺留分権利者全員の遺留分が,その増加した相続財産の額を基礎として計算されることになる。
その結果,遺贈や生前贈与がなされない場合には,寄与分のある相続人が寄与に相当する相続財産を取得でき,遺留分減殺請求が行使される余地もないのに対し,被相続人が相続人の寄与に報いるためにその相続人に対して寄与相当額を遺贈した場合には,その他の相続人である遺留分権利者が,寄与分のために増大した遺留分の金額を前提として,遺留分減殺請求をなしうるという状況が発生しうる。
このような,矛盾した状況が発生する法律の条文どおりの結論をそのまま認める解釈は一般的ではなく,寄与分を定めるにあたっては各共同相続人の遺留分の金額も考慮すべきであるとするなど,寄与分と遺留分との間に一定の関係を認めようとする解釈が一般的である。
この問題の取扱について,最高裁判所の判例ではないが,他の共同相続人の遺留分を侵害するような過大な寄与分を認めた審判を取り消した高等裁判所の判例がある(東京高決平成3年12月24日)。

7 遺留分を侵害された者にはどのような権利が認められるか−遺留分減殺請求権

遺留分を侵害された者には,侵害された額を取り戻す権利(遺留分減殺請求権)が認められている。
遺留分減殺請求権を行使できるのは,遺留分権利者及びその承継人である。承継人には,包括承継人(遺留分権利者の相続人)の他,特定承継人(例えば,減殺によって取り戻される遺贈の目的物を譲り受けた者など)も含まれ,これらの者が遺留分減殺請求権を行使できる。
遺留分減殺請求の相手方は,被相続人から遺贈や贈与を受けた者である。

8 遺留分減殺請求の対象・相手方

遺留分が侵害されているということは,前述の遺留分の侵害額の算出方法において,遺留分の侵害が肯定されるに至るような遺贈や生前贈与等を被相続人が行ったということである。
よって,遺留分減殺請求の対象は,このような遺贈や生前贈与等であり,類型的に示すと次の通りである。

  • 遺贈
  • 相続開始1年前までの贈与
  • 贈与契約の当事者双方が遺留分の侵害があることを知ってなした贈与
  • 相続人に対する特別受益に該当する生前贈与

そして,これらの遺贈や贈与を受けた者が遺留分減殺請求権行使の相手方ということになる。

9 遺留分減殺請求権の行使方法

遺留分減殺請求権は,遺留分を侵害された者から,相手方に対して,「私は遺留分減殺請求権を行使する」という意思表示を行うことによってなす。
法律上は,裁判による必要もなく,書面でなす必要もないが,遺留分減殺請求がなされたか否かが後日争われることのないよう,裁判外でなす場合には内容証明郵便で行うのが無難であろう。

10 遺留分減殺請求権を行使しなかったらどうなるか

遺留分減殺請求権は権利であって,これを行使する義務はない。
よって,遺留分減殺請求権を行使しなければ,たとえ遺留分を侵害する生前贈与であろうと遺贈であろうと,生前贈与・遺贈による法的効果がそのまま認められることになる。
つまり,遺留分を侵害する生前贈与や遺贈も当然に無効となるものではなく,遺留分減殺請求権が行使されて初めて遺留分を侵害している限度でその効力が否定されるに過ぎない。

11 遺留分減殺の対象となる贈与や遺贈が複数あるときはどのように減殺されるのか

遺留分減殺請求権は,各自の遺留分を確保するために必要な限度でのみ認められるものである(民法1031条)。
減殺の対象となる贈与・遺贈が複数ある場合,まずは遺贈が減殺され,それでも遺留分が確保されなければ贈与が減殺される(民法1033条)。
減殺の対象となる遺贈が複数ある場合,遺留分権利者の側で減殺対象を選ぶことはできず,原則として遺贈全体について価格の割合に応じて減殺されることになる(民法1034条)。ただし,遺贈者が遺言で別段の意思を表示していたときはそれに従って減殺される(同条但書)。
減殺の対象となる贈与が複数のときは,新しい贈与から古い(昔の)贈与の順に減殺される(民法1035条)。ここで「新しい」か「古い」かは贈与契約締結時の先後と解されている。ただし,死因贈与の取り扱いについて,最高裁判所の判例がなく学説は分かれているが,高裁判例は死因贈与は遺贈に近いから,(贈与契約締結時にかかわらず)贈与の中でまず最初に減殺すべきとする(東京高判平成12年3月8日)。

12 贈与を受けた者に対して遺留分減殺しようとしたところ,この受贈者が無資力だった場合はどうなるか

生前贈与が遺留分減殺請求の対象となるものの,減殺請求をしようとした時点ではその受贈者が既にお金を持っておらず無資力であるという場合が考えられる。
このような場合につき,法は「減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担に帰する。」と定め(民法1037条),この受贈者から取り戻せなかった分を他の受贈者や受遺者から取り戻すことはできないものとしている。

13 遺留分減殺請求権者が複数いる場合はどのように権利行使されるか

遺留分減殺請求権は,各自の遺留分を確保するために必要な限度でのみ認められるものであるから(民法1031条),遺留分権利者が複数いる場合は,各自の侵害額の割合に応じて減殺請求すると解すべきである。
減殺請求を受ける者に十分な資力がない場合,「早い者勝ち」として減殺請求権を早く行使した者の順で減殺を認める(減殺請求権を行使するのが遅れた者が相手方の無資力の危険を負担することになる)のではなく,減殺額は各遺留分権利者の侵害額の割合に応じた割合で認められると解すべきである。

14 遺留分減殺請求権を行使するとどのような効果が発生するのか

遺留分減殺請求権の目的は,遺留分を確保するために贈与や遺贈の効力を奪うことにある。
よって,金銭の贈与や遺贈が減殺された場合,まだ履行されていない部分についてはもはや受贈者・受遺者からの履行請求はできなくなるし,すでに履行済みの分については返還を請求することができる。
例えば,「自宅の土地・建物を与える」というように,特定物を目的とする贈与・遺贈については,当該目的物の現物を返還することが原則であるとされている。
しかし,受贈者・受遺者は,現物返還の代わりに価額を弁償するという選択肢を選ぶことができる(民法1041条1項)。ただし,単に「価額弁償する」という意思表示をするだけでは現物の返還義務は免れず,現実に価額の弁償を履行し又はその弁償のための弁済を提供してはじめて現物の返還義務を免れるとされる(最判昭和54年7月10日)。
このような価額弁償がなされる場合の当該目的物の評価額は,現実に弁償がなされる時を基準時として評価された金額となる(最判昭和51年8月30日)。

15 遺留分減殺請求を受けた受贈者が贈与を受けた物を既に他人に譲渡している場合の取り扱い

不動産等の特定物の贈与を受けた者が,遺留分減殺請求を受けるよりも前に,当該贈与の目的物を既に他人(転得者)に譲渡している場合,当該受贈者は価額を弁償しなければならないとされている(民法1040条1項)。このような取り扱いは,遺贈の場合も同様であるとされる(最判昭和57年3月4日)。
遺留分減殺請求権者は,原則として転得者に対しては何も請求できないが,例外としてその転得者が悪意であったとき,すなわち当該転得者が譲渡を受けた当時,遺留分を侵害することを知っていたときは,遺留分権利者は転得者に対しても遺留分減殺請求権を行使することができ(民法1040条1項但書),当該目的物の現物返還を求めうる。ただし,この場合の転得者も価額弁償を選択することができる(民法1041条2項)。

16 遺留分減殺請求を受けた受贈者は,贈与された物についての時効取得を主張できるか

相続発生から10年以上前になされた贈与であっても,贈与契約の当事者が悪意である場合には遺留分減殺請求の対象とされている(民法1030条参照)。
そこで,遺留分減殺請求を受けた受贈者が,贈与を受けた後に所定の取得時効期間が経過したものとして(民法162条),取得時効を主張できるかが問題となる。
この点につき,判例は,受贈者がたとえ時効を援用しても,遺留分減殺請求が優先するものと判断した(最判平成11年6月24日)。

17 相続人の一部のみに過大な相続分が指定された場合に遺留分減殺請求が可能か

遺留分が侵害されるのは,生前贈与や遺贈がなされた場合のみに限られず,相続人の一部のみについて過大な相続分が遺言により指定された結果,その他の相続人の取り分が少なくなり遺留分に満たなくなる場合が考えられる。
この場合,遺留分を侵害する限度でそのような相続分の指定自体がそもそも無効になるとする見解もあるが,贈与や遺贈の場合と同様に,遺留分減殺請求が可能と解するのが通説的考え方である。
よって,遺留分を侵害する相続分の指定も,当然には無効ではなく,遺留分減殺請求がなされない限り,指定どおりの相続分が認められることになる。

18 遺留分減殺請求をしようとする相手方にも遺留分がある場合の取り扱い

共同相続人どうしで遺留分の侵害が生じる場合,遺留分減殺請求の相手方も相続人であるから,この者にも遺留分があることが考えられる。
この場合,遺留分減殺請求を受けた結果,その者の遺留分が侵害される結果となったのでは取扱があまりに煩雑なものになってしまう。
そこで,判例は,相続人に対する遺贈が遺留分減殺対象となる場合においては,この遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分を超える部分のみが遺贈の目的(民法1034条)として減殺の対象になり,このような取り扱いは,特定の遺産を特定の相続人に相続させるという趣旨の遺言による遺留分の侵害の場合も同様であるものと判断した(最判平成10年2月26日)。

19 自己の遺留分を相続開始前に放棄することはできるか

相続開始前に相続そのものを放棄することはできないが,自己の遺留分については家庭裁判所の許可を得て予め放棄することができる(民法1043条1項)。遺留分が予め放棄されていれば,特定の者のみに遺産を全額与えるような遺贈や生前贈与がなされても,将来遺留分減殺請求を受けるおそれがなくなる。
家庭裁判所の許可が必要とされる理由は,遺留分の放棄が,他者によって強要される等の不合理な状況がないかを家庭裁判所が確認するためである。
相続開始後に相続そのものが放棄されれば,その分他の相続人の相続分が増加することになるが,遺留分については遺留分の放棄がなされても,他の遺留分権利者の遺留分は増加しない(民法第1043条2項)。放棄された遺留分相当額は,被相続人が自由に処分できる財産の増加にあてられることになる。
遺留分の放棄があっても,これは相続放棄ではないから,相続人の地位は失われない。

20 相続放棄がなされた場合,その者が有していた遺留分はどうなるか

遺留分の放棄がなされても,他の者の遺留分には影響がないことは既に述べた。
しかし,遺留分ではなく相続そのものが放棄されればその者ははじめから相続人とならなかったものとみなされるから(民法939条),その者の遺留分も観念することができず,結局他の者の遺留分は相続放棄がなかった場合と比べて増加すると考えられる。

21 遺留分減殺請求権の行使については期間制限がある

遺留分減殺請求権の行使は,遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年,相続開始の時から10年の期間制限にかかる(民法1042条)。
この期間内に遺留分減殺請求権を行使しなかった場合には,もはや遺留分を主張することができなくなる。
減殺すべき贈与や遺贈があったことを知っていれば,減殺請求できる額までは知らなくても期間は進行すると解されるし,その贈与や遺贈が法的に無効であるとして裁判で争っている(ので,法的には贈与や遺贈がないと思っていた)というだけでは期間の進行は否定できないというのが判例であるから(最判昭和57年11月12日),遺留分権利者としては,あやしげな贈与や遺贈に気づいた場合はすみやかに内容証明郵便などで遺留分減殺請求権を行使するという意思表示をしておくべきである。減殺請求権が空振りに終わったところで特段の不利益はないし(郵送料くらいのものであろう),減殺請求権の行使によって確保した自己の遺留分について後でじっくり考えて放棄することも自由である。