つるさき法律事務所
遺言・相続・損害保険等

神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

ホーム

事務所案内

遺言・相続
前章へ戻る
第6章 遺贈
次章へ進む

債務整理

損害保険

リンク


Copyright (C) 2005 Tsurusaki Motoyuki All Rights Reserved

www.tsuruhou.com
第6章 遺贈
1 遺贈(いぞう)とは何か

遺贈とは,遺言によって自分の財産を無償で他人に与えることである。 遺言者は,自分の遺産の一定割合(例:「遺産の4分の1」)又は遺産に属する特定の財産(例:「私の自宅建物」)を遺言によって処分することができるものとされており(民法964条),これが遺贈である。前者を包括遺贈と呼び,後者を特定遺贈と呼ぶ。 法定相続人ではないが,生前世話になった人に遺言をもって自分の遺産の全部又は一部を与えるようなケースが遺贈の典型例である。 遺贈によって利益を受ける者を受遺者(じゅいしゃ)という。

2 遺贈と相続との違い

相続人以外の者が遺言に基づいて財産が与えられたとすれば,それは通常遺贈によるものであると考えられる。
ただ,受遺者となりうるのは相続人以外の者には限られず,相続人が受遺者となることもできるから,相続人が遺言に基づいて財産を与えられたとすれば,遺贈による場合と相続による場合(遺言による遺産分割方法の指定として,特定の財産がその相続人の取り分と指定された場合)とが考えられる。そこで,遺贈と相続との違いが問題となる。両者の主な相違点は次の表の通りである。

遺贈と相続との相違点
遺贈相続(遺産分割方法の指定)
相手方相続人に限らない相続人に限る
相手方が与えられた財産を欲しない場合当該遺贈を自由に放棄することができる(民法986条1項)。相続そのものを放棄しない限り当該財産が与えられることを放棄できない。
登記手続登記義務者である相続人と受遺者との共同申請となる。当該財産を与えられた相続人の単独申請で移転登記が可能とされている(現在の登記実務)。
登記の際の登録免許税標準課税額の1000分の25(贈与と同じ扱い)標準課税額の1000分の6
対象物が農地であった場合所有権移転につき知事の許可が必要。左のような許可は不要。

上の表の通り,遺贈よりも相続のほうが登記手続の面及び登記の際の登録免許税の点で有利である。
そこで,遺言によって相続人に遺産を分け与える場合は,遺贈ではなく相続による取得であることを明らかにするために,例えば「長男の一郎に自宅の土地・建物を与える」といった表現ではなく,「自宅の土地・建物は長男の一郎に相続させる」といった表現(「『相続させる』遺言」と呼ばれる)が採用されることが多い。

3 遺贈と死因贈与との関係

遺贈とよく似たものとして死因贈与がある。これは,贈与する者が死んだ時に贈与の効力が発生する贈与契約である。例えば,「私が死んだら自宅の土地・建物を無償で甲に与える」という内容の契約がこれにあたる。
遺贈は遺言という遺言者が単独で行う行為に基づいて財産を与えるものであるのに対して,贈与は財産を与える者と財産を受ける者との間の契約であるから両者は法的には異なる。
遺贈は遺言によってなされるから,法的に有効な遺言書に記載される必要がある。これに対して死因贈与は贈与契約であり,贈与契約については必ずしも書面を作成することが要求されないから,口約束による死因贈与も法的には有効である(ただし,重要な財産の贈与については後の紛争を避けるため書面を作成した方が好ましい)。
一般に,書面によらない贈与契約は,履行前は自由な撤回が可能であるが,書面による贈与契約は,このような自由な撤回ができないものとされている(民法550条)。
ただし,死因贈与については遺贈についての規定が準用されるから(民法554条),書面によって死因贈与をした場合であっても原則として(例外として,負担付死因贈与で贈与を受ける者が既にその負担を履行済みの場合がある)自由に撤回することができ,その撤回の方法も必ずしも遺言の方式でなすことを要しないとするのが判例である(最判昭和47年5月25日)。

4 遺贈に対する制約−遺留分による制約

遺贈は,遺言者が自分の財産を処分するだけのものであるから,原則として誰にどのような財産を与える遺贈をなそうとも自由であるのが原則である。
しかし,法は一定範囲の相続人に,遺産の最低限の取り分としての遺留分(いりゅうぶん)を認めており,遺贈によってこの遺留分にも満たない財産しか得ることができなくなった相続人は,自分の遺留分が侵害される限度で遺贈の効力を否定することができる(遺留分制度)。
よって,遺贈の自由は遺留分の限度で制約を受けることになる。

5 遺贈に対する制約−公序良俗違反−愛人に対する遺贈

妻子持ちであった遺言者が,遺贈によって遺産を愛人に与えた場合,この遺贈は有効か。
判例は,不倫関係の維持継続を目的とする遺贈は公序良俗に反し無効(民法90条)としている(最判昭和18年3月19日)。
しかし,判例は,愛人に対する遺贈であっても,それが不倫関係の維持を目的とするものではなく,愛人の生活を保持する目的のものであって,その遺贈が相続人らの生活の基盤が脅かすものとはいえない場合には遺贈は有効であると判断している(最判昭和61年11月20日)。
よって,目的によって遺贈が有効か無効かが判断されることになる。

6 一定の負担をさせることと引き換えになす遺贈−負担付遺贈

完全に無償で遺産を与えるのが遺贈の典型パターンであるが,遺産を与える代わりにその者に一定の負担を負わせるという形の負担付遺贈も有効である。例えば,「遺産中の自宅土地・建物は甲に与える。その代わり甲は寝たきりのAが死ぬまで経済的な面倒を見ること」といった内容の遺贈が考えられる。
負担の方が遺贈の目的物の価額を超える場合は,遺贈の目的物の価額を超えない限度においてのみ負担をすれば良いものとされている(民法1002条1項)。
遺言者の死亡後,遺贈を受けた者はこのような負担付遺贈を放棄することができるが(民法988条1項),その場合は,負担によって利益を受けるべき者(受益者)が自ら受遺者となることができる(民法1002条2項)。上記の例で言えば,甲が遺贈を放棄すればAが受遺者となることができる。
負担付遺贈を受けた者が,その負担した義務を履行しないときは,相続人は,相当の期間を定めて履行を催告し,期間内に履行がなければ,その負担付遺贈にかかる遺言の取消を家庭裁判所に請求することができる(民法1027条,取消請求権)。
この取消請求権が行使されると負担付遺贈の効果が消滅し,その遺産は相続人に帰属することとなるが,その場合は,負担部分も相続人に帰属すると解すべきであろう。

7 「遺産全部を与える」「遺産の4分の1を与える」等とする遺贈−包括遺贈

与える遺産を特に指定せず,遺産全部又は遺産の一定割合を与える内容の遺贈を包括遺贈といい,包括遺贈を受ける者を包括受遺者という。なお,包括遺贈とは逆の概念で,与える遺産が個別に指定されている遺贈を特定遺贈という。
包括受遺者は,相続人の同一の権利義務を有するものとされ(民法990条),積極財産だけでなく債務等の消極財産も受け継ぐこととなる。
特定遺贈の放棄は,遺言者の死亡後いつでもできるものとされているが(民法986条1項),包括遺贈の放棄は相続放棄と同じ手続で行うこととなる。
相続人と包括受遺者とでは次のような相違点がある。

相続人と包括受遺者の相違点
相続人包括受遺者
遺留分の有無遺留分による保護を受ける遺留分による保護なし
代襲相続の有無代襲相続あり代襲相続なし
共同相続人の相続放棄があった場合それによって相続分が増える遺贈を受けた持分は増えない
持分の対抗要件登記なくして持分を第三者に対抗できる持分は登記しないと第三者に対抗できない
なりうる資格自然人に限られる法人も包括受遺者になりうる