つるさき法律事務所
遺言・相続・損害保険等

神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第5章 遺言
1 遺言の読み方は「いごん」か「ゆいごん」か

結論としてはどちらでも正しい。
ただし,一般的には「ゆいごん」という言い方のほうが多く用いられ,法律家の間では「いごん」という言い方のほうが多く用いられる傾向にはあるようだ。
世間一般では,故人の最期の言葉という広い意味で,「ゆいごん」という言葉が用いられていると思われる。
しかし,法的に何らかの効果がある遺言は所定の要件を満たしたものに限られるから,法律家はこのような法的に有効な遺言のことを念頭において「いごん」という言葉を用いることが多いと思われる。
ただ,六法全書中の「遺言」という言葉にルビがふられている訳ではないから,法律上の「遺言」のことを「ゆいごん」と読んでも差し支えない。
また,沿革的に,もともと「遺言」に「いごん」という読み方はなく,「ゆいごん」という読み方のほうが由緒正しいとして,もっぱら「ゆいごん」という読み方で通す法律家もいる。

2 遺言にはどのような法律効果があるか

自分自身の最期の言葉としてどのような事柄を遺言として残そうと,それは各人の自由ではある。例えば,「私が死んだ後は兄弟仲良く暮らしなさい。」という遺言や,「私の葬式の際はBGMにバッハの曲を流しなさい。」という遺言を残すことは自由であるし,それに遺族が従うことは好ましいことでもある。
しかし,このような遺言には法的な意味がない。このような遺言があったとしても,残された兄弟に仲良く暮らす法的な義務が発生するものではないし,葬式のBGMにベートーベンの曲を流しても法的には問題ない。
遺言事項として一定の法律効果が認められ,法的に意味がある事項は下の表に掲げるものに限られている。
よって,法的には,このような事項について故人が残したもののみが遺言であると言える。

法的に意味がある遺言事項
類型具体的事項
1 法定相続の修正
  • 相続人の廃除・排除の取消(民法893条,894条2項)
  • 相続分の指定(民法902条)
  • 遺産分割方法の指定(民法908条)
  • 遺産分割の禁止(民法908条)
  • 特別受益の持戻し免除(民法903条3項)
  • 遺産分割における担保責任に関する特段の意思表示(民法914条)
  • 遺留分減殺方法(民法1034条但書)
2 相続以外の財産処分
  • 遺贈(民法964条等)
  • 財団法人設立のための寄附行為(民法41条2項)
  • 信託(信託法2条)等
3 身分に関する事項
  • 認知(民法781条2項)
  • 未成年後見人の指定(民法839条1項)
  • 未成年後見監督人の指定(民法848条)
4 遺言の執行に関する事項
  • 遺言執行者の指定(民法1006条1項) 等

上記遺言事項の中で,普通の人々にとって最も関心がある事項は,「相続分の指定(民法902条)」,「遺産分割方法の指定(民法908条)」及び「遺贈(民法964条等)」であろう。
これらが遺言事項として認められていることから,遺言によってどの遺産をどの相続人にどのように分け与えるかを自由に指定することができるし,相続人以外の第三者に遺産を分け与えることもできる訳である。
このような遺言による相続,遺贈の指定は,基本的には法律の定める原則的相続方法(法定相続)に優先することになる。
ただし,一定の相続人には遺留分という最低限の遺産の取り分が認められており,上記遺言による相続,遺贈の指定によって,自分の取り分が遺留分にも満たなくなった相続人は,自己の遺留分を確保する限度で遺言の効力を否定して最低限の自分の取り分を確保する権利(遺留分減殺請求権)が認められている。その限りで遺言による相続,遺贈の指定はまったくの自由無制限という訳ではない。

3 遺言にはどのような方式があるか

一般的な意味での遺言はどのよな方式であろうと構わない。枕元においた録音機に最期の肉声を吹き込んだものも立派な遺言ではある。
しかし,法的な意味での遺言は,法の定める所定の方式に厳格に従って作成されなければ,遺言として法的な効果が認められない。
ただし,法の定める方式は1通りではなく,以下に述べるとおり,法は状況に応じて選択可能なようにいくつかの方式を定めている。
遺言の方式を大きく2つに分けると,普通方式と特別方式とに分けられる。普通方式は,さらに自筆証書遺言(民法968条),公正証書遺言(民法969条),秘密証書遺言(民法970条)の3つに分けられる。また,特別方式は,さらに危急時遺言(民法976条,979条),隔絶地遺言(民法977条,978条)の2つに分けられる。

遺言の方式
大分類小分類
普通方式
  • 自筆証書遺言(民法968条)
  • 公正証書遺言(民法969条)
  • 秘密証書遺言(民法970条)
特別方式
  • 危急時遺言(民法976条,979条)
  • 隔絶地遺言(民法977条,978条)

4 自筆証書遺言の作成方法

自筆証書遺言は,作るのが最も簡単な遺言である。
自筆証書遺言を作成するには,遺言をしようとする者が,遺言の全文,日付および氏名を自筆で書いて(「自書」)押印すれば良いだけである(民法968条)。要素は「(1)全部の自筆」,「(2)日付」,「(3)氏名」,「(4)押印」である。
「遺言書」「遺言状」「遺書」などの題名(タイトル)は付けても付けなくても構わないが,遺言であることが一目でわかるように「遺言書」などのタイトルを付けておくのが無難であろう。
用紙の大きさ,文字の大きさ,文字数や紙質も特に制約はない。極端に言えば,チラシの裏側に書いたり,床や壁に書いても良いわけであるが,後に,「遺言者は真に遺言をしようとする意思がなかったのではないか」,などといった無用の論争が生じないように便箋などの普通の紙に普通に記載しておくのが無難である。
出来上がった遺言を封筒に入れたりその封筒を封印したりする必要もない。ただ,封印しておけば後で変造されたり,「変造されたのではないか」という疑いをかけられる危険性は低くなる。しかし,封印のある遺言は,家庭裁判所で相続人又はその代理人の立会いがなければ開封できず,これに違反した者には5万円以下の過料が課されることがあるから注意が必要であり(民法1004条・1005条),封印した遺言を残す場合は,遺言を託した者にそのことを教えておく必要があるだろう。

5 自筆証書遺言における「自書」

自筆証書遺言を作成するには,遺書を自分で手書き(自書)する必要がある。パソコン・ワープロ・タイプライターでの作成では自書と認められない。
筆記具に特に制約はなく,鉛筆はだめとはされていないが,鉛筆書きでは後の変造のおそれがあり,真実変造されなかった場合でも「変造されたものである」という無用の論争を生じさせる危険があるから鉛筆は避けるべきである。普通にボールペンや万年筆で書いておけば良い。
一般に,書類を作成する際に,鉛筆で下書きした後でそれをコピーして,コピーした分を正本として用いるケースがあるが,遺言でこれをやるとアウトである。鉛筆で記載した方は法的に有効な遺言となりうるが,それをコピーした方はコピー機による作成によるものであって自書したものではないということになって法的には遺言としての効力が認められない。
遺言のコピーを残すのは構わないが,正式な遺言として残す方は自書した原本の側でなければならない。
微妙なケースであるが,カーボン複写で作成した遺言の効力が裁判で争われたケースがある。この場合も,カーボン複写された側ではなく直接筆記具で記載した側を正式な遺言として残しておけば全く問題なかったはずだが,カーボン複写された側が遺言として残されていたことから「自書」ではないのではないかとして問題となった。遺言者の気持ちは良く分かる。実際,領収書の発行などでカーボン複写された方を正本として相手方に渡し,自筆した方を自分の控えとするようなケースは多い。しかし,自筆証書遺言ではこれが大問題になるわけである。この裁判のケースでは,結果的には,カーボン複写された方についても実質的に自筆に等しいとして有効な遺言であると認められたが(最判平成5年10月19日),最高裁判所まで争われており,相当な手間暇がかかったと思われる。普通に手書きした分をそのまま遺言として残しておくのが無難である。
自分で字が書けなければ「自書」しえないから,文字を知らない者は有効な自筆証書遺言を残しえない。他方,「自書」する能力があれば,目が見えない者であっても自らの意思に基づいて自書することにより有効な自筆証書遺言を残しうる。
高齢や病気などの事情により,他人に手を添えてもらわなければ判読不能な字が書けないというようなケースがある。判例は,運筆に他人の助けを借りたとしても,それだけでは自筆能力は否定されないとしている(最判昭和62年10月8日)。
「他人の助けを借りただけである」ということが明らかなケースや,そのことを関係者の誰もが争わないのであれば問題がないだろうが,他人が手を添えて遺言を作成したということになれば,「遺言者の意思とは無関係に,手を添えた他人が事実上遺言を作成したのではないか」という疑問が呈される可能性は高い。そうなると遺言の有効性を巡って深刻な紛争になるおそれがある。よって,遺言者が,自筆に際して他人の介助が必要な程度の状況にあるならば,自筆証書遺言の作成は断念して公正証書遺言の作成を検討する方が無難ではないかと思われる。

6 自筆証書遺言における「押印」

自筆証書遺言を作成するには,押印が必須であるが,用いる印章(印鑑)には何の制限もないから,三文判でも良い。
とはいえ,100円ショップで売られているような印鑑,スタンプ印などを用いたのでは,真実有効な遺言を作成しようとした意思が疑われかねないから,実印や銀行印として使っている印鑑など,それなりに立派な印鑑を使っておくのが無難であろう。
印鑑ではなく指印でも良いとする判例もあるが(最判平成元年2月16日),同様の理由により指印は回避した方が良いだろう。

7 自筆証書遺言における「日付」

自筆証書遺言を作成するには,日付の記載が必須である。
日付の記載は普通に「平成17年5月12日」,「2005年3月4日」などと作成日を具体的に記載しておけばよい。漢数字でも構わない。「壱弐参」等を用いてもよいが通常そこまでする必要はないだろう。
「平成17年5月吉日」という記載は日付が特定できないから不可である。
日付は,遺言作成当時,遺言者に遺言作成能力があったか否かという判断基準時になる他,複数の遺言がある場合には後日付の遺言の方が優先することから,必ず具体的な日付が特定できる記載でなければならない。
具体的な日付が特定できれば良いのであるから,「私が還暦を迎えた日」といった記載も一応有効であるが,日付の記載として,あえてこのような日付の記載をする必要も乏しいのではないか。普通に日付を記載して,遺言の文章の中にでも「本日私は還暦を迎えました。そこでこの遺言を残すことにしました」などの記載をすれば良いであろう。
「日付」の問題でも「押印」の問題でも何でもそうであるが,問題を知らずに既に問題ある方法を取ってしまった場合は仕方がないが,これから遺言を残そういうのであれば,後にできる限り紛争の種を残さないよう,問題ある方法は避け,無難に作成しておくのが一番である。誰がどのように見ても有効な遺言を残しておけば,紛争が生じることもなく,紛争解決のために弁護士費用などの余計な出費を強いられたり手間暇をかけさせられることもない訳である。

8 自筆証書遺言については検認という手続が必要

自筆証書遺言の保管者や自筆証書遺言を遺言者の死後に発見した相続人は,この遺言書を家庭裁判所に提出して検認という手続を請求しなければならない(民法1004条)。これを怠った者には5万円以下の過料が課せられる(民法1005条)。
検認は,単に「このような体裁・内容の遺言書がありました」というのを公的な記録として残しておくというだけのものであり,その遺言の形式が法的に有効であるか否かとか,遺言内容がそのまま実現しうるものであるか等の実質面についての判断は含まれていない。
検認手続を怠ったからといって,遺言が無効になるわけではないが,検認手続を経ないと,遺言に基づく相続登記などができないことになる。逆に,検認手続を経たからといって,遺言書で記載されている内容がそのまま法的に実現されうるという保障もない。

9 自筆証書遺言の特徴

自筆証書遺言には,何といっても誰にもその内容を知られずに手軽に作成できるという特徴がある。
しかし,その手軽さゆえに常に偽造や変造がなされるリスク及び偽造・変造に係るものではないかと疑われるリスクを含んでいる。
また,遺言の保管方法についても特に定めがないため,真実遺言が作成されていたとしても,遺言者の死後,現実に遺言が発見されない危険性がある。自分に不利な遺言をたまたま発見した遺族がこっそりその遺言を捨てて頬かむりをしてしまえば,遺言内容が実現されない可能性が高い。
理屈上は,法的に有効な遺言が存在していた場合,遺言者の死後にその遺言が物理的に消失したとしても遺言は有効であるが,現物が見つからない以上,有効な遺言が真に存在したこと及びその内容を証明することは容易でない。
また,自筆証書遺言は誰にも内容を知られずに遺言を作成できることから,遺言内容に用いられている表現が曖昧であるなどの理由によって遺言内容の解釈について争いが生じたり,極端な場合には遺言の効力そのものが争われるという危険性もある。
その他,自筆証書遺言の場合,検認手続が必要である(公正証書遺言では不要)。

10 公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言は,簡単に言えば,公証人にお金を払ってお願いして作ってもらう遺言である。
公正証書遺言は次のような手順で作成される。(1)証人2人以上が立ち会って,(2)遺言者が遺言の内容を口頭で公証人に伝え,(3)公証人がその内容を筆記し,(4)筆記した内容を公証人が遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させ,(5)遺言者及び証人が間違いないことを確かめて,(6)遺言者及び証人が署名・押印し,(7)公証人が,以上の経過に従って作ったものである旨付記して署名・押印する。なお,遺言者が署名できないときは,公証人がその旨付記して署名に代えることができる。

11 公正証書遺言の特徴

公正証書遺言は,公証人という公務員が内容にまで関与して作成されるものであるから,偽造や変造のリスクはほとんどない。
遺言内容の解釈について争いが生じる可能性があるような問題点についても,公証人が指摘して適切な表現方法を工夫するなどの方法が取られるから,遺言の効力を巡って将来紛争が生じる危険性も低い(皆無ではない)。
また,公正証書遺言の場合,自筆証書遺言の場合に要求される検認手続は不要である。
さらに,公正証書遺言は原本を公証人が保管するから,有効な遺言がこっそり破棄されてしまうという危険性がなく,公証役場に照会することで遺言内容が正確に再現される。加えて近時は日本全国の公正証書遺言がオンラインで一元管理されており,遺言者の死後は,どの公証役場に照会してもその人が公正証書遺言を残していたか否かが判明する。
公正証書遺言の短所は,遺言内容が公証人や2人の証人に知られてしまうこと,手続が面倒で費用もかかることが挙げられる。

12 秘密証書遺言の作成方法

秘密証書遺言は,遺言内容はこっそり作成して封印し,封印した遺言を公証人に提出して,その遺言書が存在することを公に記録してもらう方法による遺言である。
秘密証書遺言は次のような手順で作成される。(1)遺言者が遺言書に署名押印して(ワープロ等で作成しても良い),(2)遺言者がそれを封じて遺言書に用いた印で封印し,(3)それを公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して自分の遺言書であることと自分の氏名・住所を述べ,(4)公証人がその提出日及び遺言者が述べたことを封紙に記載し,(5)公証人,遺言者及び証人が署名・押印する。
秘密証書遺言の場合,上記の通りワープロ等で作成しても良いが,自筆証書遺言の作成要領に従って自筆で作成しておけば,秘密証書遺言として無効と判断されるような事態が発生しても,自筆証書遺言として有効と認められる。

13 秘密証書遺言の特徴

秘密証書遺言は,公証人という公務員が遺言者の遺言であることを確かめることから,公正証書遺言の場合と同様に遺言の偽造や変造のリスクはほとんどない。ただし,公証役場には,遺言書の封紙の控えだけが保管されるだけなので,遺言書の本体が遺族等の手により隠されてしまったり破棄されてしまい,遺言の内容が分からなくなる危険が残存する。
また,遺言を封印した状態で公証人に提出することから,遺言の内容が公証人や証人に知られることがないというメリットがある。反面,公証人が遺言内容に関与しないことから,内容的に問題のある遺言について問題是正の機会が与えられないということが欠点にもなる。
また,自筆証書遺言の場合と同様に,遺言書の検認手続が必要である。

14 特別方式による遺言

自筆証書遺言,公正証書遺言及び秘密証書遺言という普通方式による遺言が不可能もしくは著しく困難な場合に遺言を残すための特別方式として,法は次のような遺言方式を定めている。なお,死亡危急者遺言と船舶遭難者遺言とを合わせて危急時遺言と言い,伝染病隔離者遺言と在船者遺言とを合わせて隔絶地遺言と言う。
なお,特別方式による遺言は,普通方式による遺言が不可能もしくは著しく困難な場合の特例だから,普通方式の遺言ができるようになってから6ヶ月間遺言者が生存したときは特別方式による遺言は無効になる(民法983条)。

特別方式による遺言
方式この方式が許される遺言者遺言の具体的方法
死亡危急者遺言(民法976条)疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者証人3人以上が立ち会い,そのうち1人に遺言の趣旨を口頭で伝え,これを伝えられた者が筆記して遺言者と他の証人に読み聞かせ又は閲覧させ,各証人が確認したうえで署名押印する。また,遺言の日から20日以内に家庭裁判所での確認手続を請求することが必要である。
船舶遭難者遺言(民法979条)船舶が遭難した場合であって,死亡の危急に迫った者証人2人以上が立ち会い,そのうち1人に遺言の趣旨を口頭で伝え,これを伝えられた者が筆記して,各証人が署名押印する。また,遺言が作成されてから遅滞なく家庭裁判所での確認手続を請求することが必要である。
伝染病隔離者遺言(民法977条)伝染病により行政処分により隔離された者警察官1人及び証人1人以上が立ち会って遺言を作成し(代筆で良い),遺言者,筆者(代筆の場合),立会った警察官・証人が署名捺印する。
在船者遺言(民法978条)船舶中にある者船長又は事務員1人及び証人2人以上が立ち会って遺言を作成し(代筆で良い),遺言者,筆者(代筆の場合),立会った船長又は事務員・証人が署名捺印する。

15 遺言書に対して加筆・訂正できるか

遺言書の加筆・訂正は可能であるが,遺言書に加除その他の変更を施す場合には,遺言者がその場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつその変更箇所に押印しなければ変更の効力が認められない(民法968条2項)。
このように,変更方法が厳格に法定されていることから,加筆・訂正がなされた場合,その変更が法的に有効であるか否かの争いが生じる可能性がある。
よって,遺言書を修正するのであれば,加筆・訂正にはよらず,全体を作り直したほうが無難ではないかと考えられる。

16 夫婦で共同して遺言することができるか

遺言は2人以上の者が同じ証書でなすことはできないものとされている(民法975条)。これを共同遺言の禁止と呼ぶ。遺言は遺言者の意思に基づき自由に撤回できるが,共同遺言がなされると自由な撤回ができなくなるからであると言われている。
よって,どんなに仲良し夫婦であっても共同で遺言することはできず,夫と妻がそれぞれ自分の遺言を残すより他ない。
なお,2人の遺言が同一の紙に書かれていたとしても,内容が全く独立しており,切り離せば2通の独立した遺言書になるような場合にはそれぞれの遺言書として有効であるとした判例もあるが,無難に別の紙に記載しておくに越したことはないだろう。

17 未成年者が遺言をすることができるか

未成年者であっても満15歳以上であれば法的に完全に有効な遺言ができる(民法961条)。
通常の法律行為に関しては,未成年者の行為は後に取り消すことができるが,満15歳以上の者の遺言は未成年を理由に取り消されることもない。
遺言は本人の最後の意思であるから,法はできる限りこれを尊重しようとしたのである。
他方,15歳未満の者の遺言には遺言としての法的な効力は認められない。

18 いったん有効に成立した遺言を撤回することができるか

遺言者の最終的な意思を尊重するのが遺言の目的であるから,遺言者が死亡するまでの間に心変わりをしたというのであれば,その心変わりも尊重される。
よって,遺言者はいったん有効に遺言をしたとしても,その後遺言の全部又は一部を自由に撤回することができる(民法1022条)。
撤回の方法は,遺言の方式に従って行えば足りる。撤回される遺言の方式と同じ方式でなくても良いから,公正証書遺言の内容を,自筆証書遺言により撤回することもできる。
前回の遺言を撤回するという内容の遺言を新たに作成するのが撤回の典型例だが,次のような場合にも撤回があったものとみなされる。

  • 前の遺言と抵触する遺言がなされた場合は,抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条1項)
  • 遺言と抵触する生前処分(例えば,遺言で与えるとしていた財産を生前に全く別の者に贈与することなど)があった場合は,抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条2項)
  • 遺言者が遺言書を故意に破棄したときは,破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされる(民法1024条前段)
  • 遺言者が遺言で与える(遺贈する)としていた目的物を故意に破棄したときは,破棄した目的物について遺言を撤回したものとみなされる(民法1024条後段)

結局のところ,法は遺言者が一番最後に態度で示した意思を尊重しようとしているものと考えられる。
同一遺言者による複数の遺言が存在する場合は,後の日付の遺言が優先することになる。この場合,遺言の形式は無関係であるから,最初の日付の遺言が公正証書遺言でなされていたとしても,後の日付の自筆証書遺言の方が優先することになる。

19 遺言の撤回をさらに撤回した場合はどうなるか

民法1025条は,「撤回された遺言は,その撤回の行為が,撤回され,取り消され,又は効力を生じなくなるに至ったときであっても,その効力を回復しない。ただし,その行為が詐欺又は強迫による場合は,この限りでない。」としている。
よって,詐欺や強迫によって遺言を撤回させられた場合は,その撤回行為を取り消すことによって遺言の効力が復活することになるが,それ以外の場合は,いったん撤回された遺言の効力は復活しないものとされている。
しかし,これではあまりにも杓子定規な結論になってしまって不都合な場合があることから,判例は,遺言者が遺言を撤回する遺言をさらに別の遺言をもって撤回した場合において,遺言書の記載に照らし,遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは,当初の遺言の効力が復活すると判断した(最判平成9年11月13日)。
とはいえ,「撤回の撤回」などという行為が紛らわしい行為であることは明らかであるから,死後に無用な論争を呼ばないよう,最終の遺言書には,結論としての自分の最終的な意思を明示しておいた方が良いと考えられる。

20 遺言に記載された事項の解釈はどのように行うべきか

遺言の意図するところがその記載から一義的に明確である場合は問題でないが,場合によっては記載方法が曖昧であったり多義的であったりして遺言者の真に意図するところが何であったかの解釈を要する場合がある。
このように,遺言の解釈をする場合の基準について,判例は,「遺言の解釈にあたっては,遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく,遺言者の真意を探求すべきものであり,遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても,単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出してその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である」としている(最判昭和58年3月18日)。
また,判例は,「遺言の解釈は遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんである」としている(最判平成5年1月19日)。
このように,最高裁は,人生最後の意思をできる限り尊重しようとする姿勢を示している。

21 どのような場合に遺言は無効となるか

遺言特有の無効原因として,次のような事情がある場合には当該遺言は法的に無効とされる。

  • 方式が法律で定める方式に従っていない場合(例:ワープロ作成の自筆証書遺言など)…民法960条
  • 遺言能力がない者の遺言(15歳未満の者の遺言)…民法961条
  • 2人以上の者が同一の書面でなす共同遺言である場合…民法975条
  • 被後見人が,後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるような遺言をした場合(ただし,直系血族,配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合は無効とならない)…民法966条

その他,法律行為一般の無効原因として,次のような事情がある場合には当該遺言は法的に無効とされる。

  • 遺言の内容が公序良俗に反する場合(民法90条)
  • 錯誤によって遺言を作成した場合(民法95条) など

無効な遺言は,後の取消などの行為を待つことなく作成時から当然に無効であって,遺言としての法的な効力が認められない。

22 誰かに騙されて作成した遺言を取り消すことができるか

詐欺によって意思表示をした場合,その意思表示は取り消すことができるものとされているから(民法96条1項),詐欺によって騙されて遺言をした場合,その遺言も取り消すことができる。
ただ,前述したとおり,遺言は他の法律行為と異なり,遺言者が自由に撤回することができるから,通常はわざわざ相手方に対して「詐欺だから先の遺言を取り消す」などと取消の意思表示をするまでもなく,単に詐欺によってなした遺言を撤回すれば足る。
しかし,詐欺による遺言作成後に,遺言者が事実上遺言を撤回できないような状態になる場合も考えられるから(遺言者が意識不明の重体に陥った場合など),そのような場合には遺言者の法定代理人が詐欺による遺言を取り消すことになろう。

23 封印された遺言書を発見した場合はどうすれば良いか

遺言者の死亡後に封印された遺言が見つかった場合は,勝手に開封してはならない。
封印された遺言の開封は,家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会の下で行わなければならず(民法1004条3項),これに違反した場合,5万円以下の過料(※罰金のようなもの)に処せられる(民法1005条)。
なお,秘密証書遺言が有効になるためには封印が必要であるから,秘密証書遺言は常に封印されている。

24 遺言内容を実現するために実際に遺言を執行するのは誰か(遺言執行者)

遺言内容を実現する必要がある時には,当然ながら遺言者は死亡しているから,遺言者自身が遺言内容を実現するために各種の手続(遺産である不動産の登記,預貯金の解約・分配,有価証券の名義変更,受遺者への財産の引渡し等)をすることはできない。
このような遺言の執行は,基本的には相続人が行っても良いものとされているが,遺言執行をすることを権限とする遺言執行者を定めて,この者に遺言の執行を委ねることも可能である。遺言執行者の選任は,遺言による(直接「遺言執行者は誰々とする。」と指定しても良いし,「遺言執行者は誰々が指定する。」というように指定を第三者に委託しても良い)か(民法1006条1項),相続人・遺贈を受けた者等の利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者を定めるよう請求することにより選任される(民法1010条)。
なお,次のような場合は,相続人が適正に遺言を執行することが一般的に期待できないので,必ず遺言執行者を置かなければならないものとされている。

  • 遺言による子の認知(民法781条2項,戸籍法64条)…遺言執行者が戸籍上の届出を行う。
  • 遺言による相続人の廃除・その取消(民法893条・894条)…遺言執行者が家庭裁判所に審判を請求する。