つるさき法律事務所
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神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第4章 遺産分割
1 相続開始から遺産分割までの間,相続財産はどのような状態に置かれるのか

相続人が複数である場合(共同相続),個々の相続人が相続した財産を自由に使用したり処分したりできるようにするには遺産分割を行う必要がある。相続開始(被相続人の死亡)から遺産分割がなされるまでの間には一定の時間がかかることから,この間に相続財産がどのような状態に置かれるのかが問題となる。
この点,民法898条は,「相続人が数人あるときは,相続財産は、その共有に属する。」と定める。
よって,例えば,相続財産中に土地・建物等の不動産がある場合は,基本的には遺産分割がなされるまで相続人全員の共有財産ということになる。

2 相続財産の中に預金がある場合の取扱い

共同相続の場合において,相続財産の中に銀行預金がある場合,銀行に対する預金債権を複数の相続人の間で共有するという関係が生じることになる(※ 厳密には「共有」とは所有権の場合の用語であり,この場合は債権であるから「準共有」という)。
そして,債権の準共有とは,結局,同一の債権について複数の権利者がいる場合であるが,この場合について,民法は,銀行預金のようにそれを分割しても価値が損なわれないような債権(可分債権)は,各自に分割されて帰属するもの定めている(民法427条)。
そこで,相続財産の中に預金債権がある場合について,判例は,預金債権は相続分に応じて当然に共同相続人間に分割されるものとしている。その結果,預金債権についてはもはや遺産分割の余地がないということになる。
よって,法律上は,各相続人が銀行に対して自分の分だけについて単独で払い戻し請求ができることになる。
ただ,銀行実務上は,銀行側がトラブルに巻き込まれることを回避しようと考えるためか,共同相続人中の一部の者のみからの払い戻し請求は銀行から拒否されるケースが多い。どうしても払い戻してもらおうとするならば,銀行に対して裁判を起こすしかない。
なお,預金債権についても上記のように分割されたものとは扱わずに,あらためて遺産分割の対象に含めるものとして取り扱うことも有効とされている。これは共同相続人間にこのように取り扱うことについて合意があれば可能である。

3 相続財産の中に現金がある場合の取扱い

前記の通り,預金が当然に各共同相続人に分割されるのであれば,現金も分割されるものとも思えるが,現金は債権とは異なるからそのようには扱われておらず,他の財産と共に遺産分割の対象となる。
判例も,「相続人は,遺産分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して,自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできない」としている。
実際上,遺産分割の最終局面で相続人間の細かい利益調整をするためには調整手段として現金が残されている方が便宜であるといえる。

4 故人が有していた借金はどのように相続されるか

既に述べた通り,積極財産だけではなく借金のような消極財産も相続人に相続されることになるが,故人が借金を負っていた場合,複数の相続人に対してどのように相続されることになるかが問題となる。
この点について,判例は預金の場合と同じように,法定相続分に応じて各相続人に当然に分割して帰属するものと判断している。当然に分割して帰属というのは,もはや遺産分割の対象にはならないということである。
よって,例えば,300万円の借金があり,相続人が3人の子だけという場合,それぞれが100万円ずつの借金を引き継ぐということになる。

5 故人が連帯保証人であった場合,相続人はどうなるか

連帯保証人であるという地位も相続人に承継される。承継される金額についての考え方は借金の相続の場合と同様である。
例えば,故人が300万円の連帯保証人であり,相続人が3人の子のみであったとすると,それぞれの子は100万円の限度で連帯保証人としての地位を引き継ぐことになる。

6 相続財産の管理費用はどのように負担するのか

相続人が複数いる場合,遺産分割が終了するまでの間,相続財産は共同相続人の共有状態になっている。
この相続財産の管理に関する費用は,「相続財産に関する費用」として相続財産から支出するものとされている(民法885条1項)。相続財産からその管理費用の分が減るわけであるから,経済的効果としては,結局のところ,各相続人がそれぞれの相続分の割合で管理費用を負担するのと同じことである。

7 複数の相続人で相続した遺産をどのように各人に分けるか−遺産分割

複数の相続人がいる場合,遺産は相続人全員の共有状態になる。この共有状態を解消し,各人の排他的な取り分を確保するには遺産分割手続がなされる必要がある。
遺産分割の手続には相続人間の協議に基づいて分割される協議分割,家庭裁判所における調停による調停分割,家庭裁判所における審判分割という3種類の手続がある。
分割の方法としては,対象物を現実に分割してしまう方法,対象物を売却した上で代金を分ける方法,相続人の一部が対象物を取得した上でその者が他の相続人に一定の代償金を支払う方法など様々な方法がある。
共同相続人は,いつでも協議による分割を求めることができ,他の相続人が協議に応じ,全員の合意に基づいて協議が成立すれば協議分割が実現する。
他の相続人が協議に協力しない場合は,通常,家庭裁判所に対して調停分割を申し立てることになる。調停分割においては家庭裁判所が対立当事者の間に入って調整を図ってくれるが,協議分割と同様に全員の合意がなければ分割は実現されない。
調停によっても分割ができない場合は,審判分割手続に移行し,家庭裁判所の審判に基づいて遺産が分割されることになる。

8 遺産分割方法は遺言により指定することができる

被相続人は遺言により遺産分割の方法を指定することができる(民法908条)。遺言の中で直接分割方法を指定することもできるし,遺言の中で分割を第三者に委託する旨定めることもできる。
遺言により分割方法が指定されていたとしても,その方法に従った分割手続そのものは必要であるから,分割方法の指定を含む遺言があったとしても,原則として分割手続を省略することはできない。
ただし,判例は,「○不動産はAに相続させる」といった形式の遺言がある場合は,その指定された遺産については相続開始と同時に指定された者に帰属することとなり,当該遺産についてはもはや分割手続を要しないものとしている。

9 遺産である預金に基づいて相続開始後に発生した利息は遺産分割の対象になるか

遺産は相続開始時に被相続人に帰属していた財産のことであるから,理屈上は被相続人の死亡後に発生した利息は遺産に含まれず,遺産分割の対象にならないと考えることもできる。
しかし,預金に対する利息は遺産が自然に増大したものであると見ることもできるし,遺産分割の手続の他に利息分について別途その分配方法を訴訟等により解決しなければならないとするのも煩瑣であることから,実務的には預金の利息は遺産分割の対象として取り扱われている。

10 遺産である賃貸アパートから生じた賃料は遺産分割の対象になるか

この問題の構造は,上に述べた預金から生じた利息の場合とほぼ同様である。とすれば,賃料も遺産分割の対象としてよいかに見える。
しかし,預金から生じた利息の場合と異なり,アパートから賃料収入を得るためには管理費用を支出する必要がある。管理費用が金銭的に0であったとしても,相続人の一部がその労力により事実上管理していた場合には,この点を考慮する必要が生じるから,各相続人に配分すべき金額の算定は必ずしも容易でない。
このように,算定困難な要素を遺産分割手続に取り込むと,遺産分割手続の紛糾・長期化等の弊害が生じかねない。
そこで,相続後に発生した賃料は当然には分割対象の遺産には含まれず,その分割ないし精算は遺産分割とは別個の民事訴訟等の手続により解決されるべきものとされている。
ただし,遺産分割の当事者全員がこの賃料を遺産分割対象とすることに同意し,その同意が相当である場合には,賃料を遺産分割の対象とすることも可能であると考えられている。

11 協議分割の方法

協議分割による遺産分割の方法は,当事者全員の合意に基づく協議が成立する限り,どのような内容・方法により分割がなされてもよい。法定相続分に従う必要もないから,1人だけが遺産を独占するような分割内容であっても問題ない。
ただし,全員の合意が必要であるから,たとえ1人でも協議内容に合意しない者や協議そのものに応じない者がいれば協議分割は成立しないことになる。

12 協議に参加すべき相続人が一部除外されて協議分割がなされた場合はどうなるか

例えば,相続人の1人の実印を無断で使用してその相続人の合意を得ることなく遺産分割協議書が作成された場合などの分割の効力が問題となる。
参加すべき相続人を除外してなされた遺産分割は法律上無効である。したがって,その相続人を参加させて改めて遺産分割手続全体をやり直す必要がある。

13 相続開始後に認知によって相続人になった者が出現した場合の取扱い

相続開始後の認知によって相続人となった者が,既に遺産分割がなされた後に遺産分割を請求する場合は,分割のやり直しまでは求めることができず,他の共同相続人に対して価額の支払請求ができるだけである(民法910条)。
ただし,認知によりその者のみが相続人となり,既に遺産分割により遺産を取得した者が相続人でなくなるような場合には,その者は相続回復請求の方法によって遺産の回復を請求できると解されている。

14 騙されたり,強迫されたり,錯誤に陥っていた状況でなされた協議分割の効力

他の共同相続人に騙されたり,強迫されたりして協議分割を成立させた場合は,その協議を取り消すことができる。取り消されればその協議は無効となり,遺産分割を再度やり直すことになる。
また,協議分割を成立させた場合において,重要な点につき錯誤があった場合には,その協議の無効を主張することができる。よって,遺産分割を再度やり直すことになる。

15 多額の負債を有する相続人の取り分を少なくする協議分割は許されるか

例えば,相続人の1人がサラ金業者からの多額の借金を有している場合,遺産分割でこの者に遺産を配分したとしても,遺産は結局サラ金業者に行くだけになってしまうことから,その者の取り分を極端に少なくしたりゼロにしたりする遺産分割協議を成立させて遺産の散逸を防ごうとするケースが考えられる(借金を負った相続人は破産等により借金を処理することになろう)。
このような場合には,このような協議分割が債権者(上記例ではサラ金業者)に対する詐害行為であるとして協議が取り消されて無効になる可能性があり(民法424条),実際に取消を認めた判例がある(最判平成11年6月11日)。
ただし,この判例の事案は,相続が発生したかなり後に相続人が債務を負担したケースであり,債権者の側は相続による財産取得を前提として与信をしていた可能性があり,にもかかわらず後になって相続人が債権者から弁済を迫られるや自分の取り分をゼロとする遺産分割協議を成立させて自分は破産したという事案であった。
このような事案であれば,債権者による取消権を認めることについて異論は少ないと考えられるが,相続人が相続開始前から債務を負担していたような場合にはどのような要件の下で債権者による取消権が認められるのかという問題が残る。
この問題については,未だ判例によっても解決されていないが,場合によっては一部の相続人の取り分を極端に少なくする協議分割が取り消される可能性がある点には留意しておくべきであろう。
なお,似たような問題であるが,多額の借財を抱える相続人が相続放棄をする行為については,債権者によって取り消される余地はないことが判例上認められている。

16 協議分割で定めた義務を履行しない相続人がいる場合,協議を解除できるか

例えば,年老いた妻WとABC3人の子が相続人であるケースで,協議分割においてAがWの面倒を見る代わりにAが遺産を多く取得するという分割内容としたが,その後Aが一向にWの面倒を見ようとしないという場合に,BやCは遺産分割協議を解除することができるかが問題となる。
一般に,契約によって定められた義務が履行されない場合,相手方は債務不履行を理由として契約を解除することができる(民法541条)。
しかし,遺産分割協議が解除され全相続人が再度遺産の全体について分割をやり直さなければならなくなるとすると極めて大変になることから,判例(最判平成元年2月9日)は遺産分割協議が成立した場合に,相続人の1人が他の相続人に対してこの協議において負担した債務を履行しないときであっても,他の相続人はこの遺産分割協議を解除することはできないものと判断した。
解除ができないとなれば,義務の不履行により損害を被った者から義務者に対する損害賠償請求等の手段により満足を受けることを検討する必要があろう。

17 当事者全員の合意によりいったん成立した遺産分割協議をなかったものとしてやり直すことはできるか

前述の通り,遺産分割協議を当事者の一部の者から一方的に解除(法定解除)することはできないが,当事者全員が合意の上で遺産分割協議を解除(法定解除)することは妨げないものとされている(最判平成2年9月27日)。
そこで,いったん成立した遺産分割協議に基づく義務を履行しない者がある場合に,この義務者も含む当事者全員の合意に基づいてその遺産分割協議を合意解除した上で,再度遺産分割をやり直すことは可能である。

18 審判による遺産分割はどのような基準に従ってなされるか

民法906条は,遺産分割の基準として,「遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と定めている。
この基準の適用は特に審判による分割のみに限定されている訳ではないが,協議による分割や調停による分割においては当事者全員の合意が必須であり,逆に当事者全員が合意している限りにおいては必ずしも上記基準通りに分割する必要はない。
しかし,審判による分割は,当事者全員の合意に基づく分割ではないことから,客観的に公平な基準として民法906条が定める基準に従って分割がなされることになる。

19 真正な相続人であるにもかかわらず何らかの事情で相続の過程から廃除された者の救済−相続回復

例えば,本当は相続人であるにもかかわらず,被相続人死亡の事実を知らされず,他の相続人が遺産分割協議書を捏造して遺産を独占してしまったような場合,仲間はずれにされた真正な相続人のとりうる手段が問題となる。
真正な相続人が参加していない遺産分割協議は無効である。また,法的には真正な相続人は遺産の共有持分を有しているのであり,遺産分割はいつでも請求でき,この遺産分割請求権は消滅時効にはかからないから,真正な相続人としては捏造に係る遺産分割協議書の無効を主張して遺産分割のやり直しを求めることができることになる。
ここで,相続回復請求権の行使期間について制限を定める民法884条が問題となる。同条は,「相続回復の請求権は,相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも,同様とする。」と定める。
よって,本条に該当する場合は,もはや自己の真正な相続分の回復を図ることができないことになる。
しかし,判例は,同条の適用範囲を厳格に絞り込んでおり,簡単に説明すると,自分の他に相続人がいることを知っていたり知るべきであった者等については同条の期間制限は適用されないとしている。
とすると,普通は戸籍を見ることによって自分の他に誰が相続人であるかは一目瞭然であるから,戸籍に記載されている相続人を仲間はずれにして勝手に遺産分割したようなケースにおいては,同条の期間制限を受けることなく真正な相続人は自分の権利の回復を図ることができることになる。