つるさき法律事務所
遺言・相続・損害保険等

神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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遺言・相続
第1章 相続の基本
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第1章 相続の基本
1 相続・相続人・被相続人・法定相続・遺言相続とは何か

相続とは,死んだ人の財産を別の誰かに帰属させる制度をいう。その場合の死んだ人を被相続人といい,財産を引き継ぐ人を相続人という。
法は,原則として被相続人と一定の親族関係にあった者を相続人と定め,誰がどのような割合で相続するかを定めており,このような法律の定めに従った相続を法定相続という
ただし,被相続人が有効な遺言を残しておけば,それによって一定限度で法定相続とは異なる相続方法を指定することもできる。このような,遺言に基づく相続を遺言相続という。

2 どんな場合に相続が発生するか−「死亡」のみ

被相続人が死亡することにより相続が生じる。
死亡には通常の意味による死亡の場合の他にも,失踪宣告がなされた場合及び認定死亡の場合が含まれる。失踪宣告とは,ある人が一定期間行方不明などで生死不明の状態になっている場合に,利害関係人が裁判所に審判を申立て,裁判所の宣告に基づいてその者を死亡扱いする制度をいう。認定死亡とは,例えば火災現場で焼死したことが確実視されるにもかかわらず死体が発見されない場合などに,とりあえず取調にあたった警察署等の官公署が死亡を認定して戸籍上死亡扱いとする場合を言う。
昔の民法上は「隠居」という制度があり,生きたままで相続を発生させることも可能であったが,現行法上は,相続の原因は死亡のみである。

3 誰が相続人になるか

原則として,相続開始の時点すなわち被相続人死亡の時点において,生存している者で,かつ被相続人と次のような関係にある者が相続人となる。

被相続人との関係取り扱い
(1) 配偶者被相続人に夫又は妻がいればこの者は常に相続人となる。
(2) 子またはその代襲者被相続人に子がいればこの者は常に相続人となる。
子は実子に限らず養子も含む。また嫡出子に限らず非嫡出子も含む。
子の代襲者というのは,相続開始以前に既に子(=A)が死亡してしまっている場合,その死亡した子(=A)の子(=B)つまり被相続人の孫である。さらに,その者(=B)も既に死亡してしまっている場合,その死亡した者(=B)の子(=C)つまり被相続人のひ孫が代襲者となる。このように,順次下の世代の者が代襲者となる。
(1)に該当する者と(2)に該当する者の双方が存在する場合,(1)に該当する者と(2)に該当する者の双方が相続人となる。
(3) 被相続人に一番近い直系尊属(2)に該当する者がいない場合で,被相続人に父又は母がいればこの者は相続人となる。父母のいずれも生存していなければ,被相続人の祖父母が相続人となる。祖父母が1人もいなければ曾祖父母が相続人となる。このように,順次上の世代の者が相続人となる。
(1)に該当する者と(3)に該当する者の双方が存在する場合,(1)に該当する者と(3)に該当する者の双方が相続人となる。
(4) 兄弟姉妹又はその代襲者(2)に該当する者も(3)に該当する者もいない場合で,被相続人に兄弟姉妹がいればこの者は相続人となる。代襲者というのは,兄弟姉妹の子つまり被相続人のおい・めいである。子の代襲者の場合と異なり,兄弟姉妹の代襲者はおい・めい止まりであり,おい・めいのさらに下の世代がいても代襲者になれない。
(1)に該当する者と(4)に該当する者の双方が存在する場合,(1)に該当する者と(4)に該当する者の双方が相続人となる。
4 内縁の妻は相続人になるか

ならない。これが法定相続について判例・実務上確立した取り扱いである。内縁の夫も同様である。
内縁の妻に遺産を残そうと考えているのであれば,生前に贈与契約等により財産を与えるか,遺言により財産を与えるといった方策を検討する必要がある。

5 お腹の中の赤ちゃん(胎児)は相続人になるか

胎児は,相続については法律上既に生まれたものとみなされるから,相続人になりうる。
例えば,被相続人が死亡した時に被相続人の妻が妊娠していた場合,胎児は被相続人の子として妻と並んで相続人になる。
ただし,死産であった場合にはこのような取扱いはない。
生きて生まれるか否かにより相続人となるか否かが異なってくることから,相続開始時点において,相続人となりうる胎児が存在する場合には,出生まで遺産分割を待つのが賢明である。

6 不正な行為を行ったために相続人の資格を失うことがあるか

相続人となるはずの者が,不正を行ったことによって法律上当然に相続資格を失う場合がある。このような制度を相続欠格という。法律上,次の5つの類型が規定されており,いずれかに該当する者は相続人となることができない(民法第891条)。

  1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。
  3. 詐欺又は強迫によって,被相続人が相続に関する遺言をし,撤回し,取り消し,又は変更することを妨げた者
  4. 詐欺又は強迫によって,被相続人に相続に関する遺言をさせ,撤回させ,取り消させ,又は変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し,変造し,破棄し,又は隠匿した者
7 自分に有利な遺言書であっても,これを破棄すれば相続資格を失うか

例えば,3人兄弟の長男にだけ有利な遺言書が残されていた場合,3人平等に相続したいと考えた長男が遺言書を破棄したとする。前述した通り,法律の規定によれば,遺言書を破棄した者は相続人になれないから,この長男は一切相続できないことになってしまう。
しかし,この結末はあまりに不当であることから,最高裁判所の判例は,遺言書を破棄する行為が,相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは相続資格を失わないものと判示した(最判平成9年1月28日)。この判例によれば,この長男は相続資格を失わないことになる。
とは言え,無用な紛争を起こさぬよう,遺言書を破棄するような行為は避けたほうが良いであろう。

8 「あいつには相続させない」ということが可能か

(1) 遺言による方法
まず,遺言による方法として,相続させたくない者以外の者だけに財産を与える内容の遺言を残しておくことが考えられる。この方法は,「相続させたくない者」が自分の兄弟姉妹である場合は完全に有効な方法である。
しかし,「相続させたくない者」が兄弟姉妹以外の相続人(配偶者,子とその代襲者,直系尊属)である場合は完全ではない。これらの者には法律上「遺留分」という最低限相続できる一定割合が定められており,遺言によってこの遺留分を侵害することはできないとされているからである。
よって,遺言によって一文も貰えなくなった子などが,「その遺言は自分の遺留分を侵害しているので侵害分を自分によこせ」と主張すること(遺留分減殺請求権)が法的に可能になる。なお,このような主張をする義務はないので,遺留分を侵害された者が何も主張をしなければ遺言通りに相続が実現される。兄弟姉妹には遺留分はないから,上記の通り兄弟姉妹には何も与えないという遺言はそのまま実現される。
また,被相続人の生前に相続放棄をすることはできないが,遺留分を放棄することは家庭裁判所の許可があれば可能であるから(民法第1043条),予め遺留分を放棄させておけばその者に相続させないという遺言がそのまま実現される。
(2) 廃除による方法
上記の通り,「相続させたくない者」が配偶者,子とその代襲者又は直系尊属である場合は,遺言ではその者の相続を完全には否定できない。
そこで,これらの者の相続を否定する手段として廃除という手段が認められている(民法892条)。
民法第892条は次の通り定める。「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が,被相続人に対して虐待をし,若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき,又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは,被相続人は,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」。廃除された者は相続をすることができないことになる。
ただし,廃除は相続権の全否定という強い効果を伴うものであるから,相当の事情がない限り廃除は認められない。一時的な親子喧嘩で「クソ親父!」という言葉を吐いたという程度では,その親が子を廃除することは認められないであろう。
なお,廃除は遺言によってもすることができる。この場合,遺言を執行する者が家庭裁判所に対して排除の請求をすることになる。
(3) 離婚による方法
「相続させたくない者」が配偶者であれば,離婚するのが簡単である。親子の縁は切れないが,夫婦の縁は離婚によって切ることができるという訳である。
配偶者を廃除することも法律の条文上は可能であるが,離婚もできないくらいであれば廃除も困難であろう。
離婚の場合は再度双方合意の上で婚姻し直さなければもとに戻らないが,廃除の場合は後で一方的に取り消すことも可能であるから,「いったん相手の相続権を奪うが,相手が反省すれば相続権を元に戻してあげよう」という意図があるのであれば,離婚ではなく廃除を選択することも考えられる。

9 「自分は相続したくない」ということが可能か

(1) 単純相続・相続放棄・限定承認
法律上は,相続人が何もせず放っておけば相続を承認したことになり,財産や借金の承継が生じるが(単純承認),相続人の意思でこれを拒否したり(相続放棄)制限したり(限定承認)することもできる。相続放棄又は限定承認をする場合は,その旨家庭裁判所に申し出る必要がある。
なお,財産だけはそのまま全部引き継ぐが借金は全部引き継がないというような虫の良いことは認められない。
(2) 相続放棄
相続放棄をした場合は,その者は相続人でないものとして取り扱われる。よって,その者は財産も借金も全く引き継がない。
死んだ人が残した財産よりも借金の方が多ければ,まずもって相続人は全員相続放棄をすることを検討すべきである。「親の借金は子供が返すべき」という倫理観は立派であるが,法的には子供が親の借金を引き継ぐべき義務は全くないので堂々と相続放棄をすれば良い。
相続放棄は,このような場合の他,一部の相続人だけに財産を引き継がせる場合にも用いられる。3人の子供が相続したが,事情があって長男だけに財産を引き継がせたいような場合に,他の2人が相続放棄すればこれが実現される。
相続放棄は,自分のために相続があったことを知った日から3ヶ月以内にしなければならない。これを過ぎると単純承認したものみなされることになる。
相続放棄は被相続人の生前になすことはできず,相続放棄するという意思を表示したとしても法的には全く無効である。
(3) 限定承認
限定承認をした場合は,相続財産限りで借金を清算した上で,財産が残っていればその分を相続し,借金のほうが多ければその借金は返済しなくて良いものとされる。
相続人にしてみれば,限定承認は非常に合理的な制度であるが,実際にはあまり利用されていない。その理由は次の通り手続が面倒であるからである。
まず,限定承認は一部の相続人だけではできず,相続人が全員で家庭裁判所に申し出なければならないものとされており,一定期間内に財産目録を作成し,債権者に債権の申出を催告する等の手続を行い借金を清算する業務を行わなければならない。
しかし,「残された財産も借金もいずれも膨大だが,調べてみなければどちらが多いか分からない」というようなケースでは限定承認という選択肢が有効であろう。
限定承認も,自分のために相続があったことを知った日から3ヶ月以内にしなければならない。これを過ぎると単純承認したものみなされることになる。

10 「自分は財産はいらないが,相続放棄手続は面倒なのでしたくない」ということが可能か

事実上の問題ということであれば,「財産はいらない」という者が何らの権利主張もせずに,その他の者が相続財産を事実上支配すれば足るということになる。
しかし,相続に基づいて不動産の登記名義を変更しようとすると,相続放棄手続をしていない者は登記手続上は相続人として取り扱われ,登記手続に関与せざるを得ないからこの点を何とかしなければならない。
そのための手段として,まず,遺産分割は基本的に相続人間の合意により自由にすることができるから,「財産はいらない」という者は名目的な財産だけを取得し,問題になっている不動産はその他の者が取得するような内容の遺産分割協議書を作成し,これを添付して相続登記をする方法が利用できる。
また,別の方法として,「財産はいらない」という者が作成した相続分皆無証明書を添付して相続登記をする方法が利用できる。相続分皆無証明書とは,「自分は既に生前贈与などによって十分な財産を受けているので,今般の相続にあたって自分が実際に取得できる財産は全くない」というような内容を記載した書面である。
これらの方法は,実際上相続放棄をした場合と同様の結果をもたらすことから,事実上の相続放棄と呼ばれる。
ただ,相続について相続人間の協議で自由に決定しうるのは積極財産についてのみであり,借金については法定相続に従って相続せざるを得ないから,法的に相続放棄をしていない場合,事実上の相続放棄をしても借金だけは債権者から請求される可能性があるという問題点がある。よって,事実上の相続放棄をする場合は,借金については積極財産を引き継ぐ者が責任をもって弁済することを確かめておく必要があるだろう。