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第11章 D&O保険契約の締結,管理の手続
第1節 D&O保険契約締結の手続
D&O保険の契約締結に至るまでの手続は,基本的には一般的な損害保険商品と同一であり,保険契約者が保険会社に対して保険料の見積り依頼をすると共に見積りに必要な情報を提供し,これを受けて保険会社が保険条件を設定して保険料を見積り,この見積り条件にて保険契約者が満足すればその条件にて契約締結となる。
保険会社が提示する見積り条件に保険契約者が不満を持った場合には保険会社との折衝を重ねることにより保険契約者と保険会社との双方が納得できる保険条件による見積りが可能であるかを探ることになる。
ただし,自動車保険や住宅向けの火災保険のような一般大衆向けに広く販売されている保険商品と異なり,特殊分野の保険商品に位置づけられるD&O保険の保険契約締結に至るまでの手続においては次のような特徴が認められる。
1 見積りのため多量の情報提出を必要とすること
「第7章 保険料 第4節 保険料の決定要素」において既に述べた通り,D&O保険の保険料算出のために考慮される要素は多岐にわたる。
よって,D&O保険の見積りを保険会社に依頼した場合,保険会社の側からは様々な情報の提供を要求されることになる。
いったん提供された情報に基づいて保険会社がさらに追加の資料・情報を提供するよう要求する場合もまれではない。
2 見積りの作成のためにある程度の時間がかかること
保険会社はD&O保険の見積りを作成するために保険契約者から提供された大量の資料・情報を分析,検討する必要があるし,必ずしも定型的ではない判断を行う必要がある。
また,そのような判断をする前提として場合によっては再保険会社との連絡・折衝を要する場合もありうる。
そのため,保険会社が見積り作成のための必要資料・情報を入手した後即座に見積りを作成することができるとは限らず,保険契約者が見積り依頼をしてから実際に見積りが提示されるまでの間に1〜2週間程度の時間がかかることがある。
3 保険会社の側から保険契約の引受を謝絶する場合もまれではないこと
保険会社は契約自由の原則に基づき保険契約者からの保険引受の要請を断ることができるのが原則であるが,実際上一般大衆向けに広く販売されているような保険商品で保険会社が保険の引受を謝絶するケースは稀である。
保険契約者が要請する保険条件による引き受けは不可能である場合であっても,保険会社は代替的な提案として引受可能な保険条件による見積りを行うのが普通である。
しかし,D&O保険においては,保険契約者から提出された資料・情報をもとに保険会社が判断した結果,いかなる保険条件であれ当該保険契約者のD&O保険契約を引き受けることはできないという結論に達することも稀ではない。
4 保険会社によって提示される見積りの内容が大幅に相違する場合があること
近時は保険業界も規制緩和の影響により自由化が進み,自動車保険や住宅向け火災保険などの一般大衆向けの保険商品においても各保険会社が様々な内容の保険見積りを行っているが,それでもほぼ同等の担保範囲とする保険条件で見積りを取り付けた場合の保険料が保険会社によって極端に違うというようなケースは考えにくい。
しかし,D&O保険においては,保険条件をどのように設定するかは各保険会社の自主的・裁量的判断に委ねられている部分が多いことから,同一の資料・情報に基づく見積りであっても,保険会社からの提示内容が保険会社ごとに大きく相違していることがある。その結果,保険会社によって提示してくる保険料が2倍以上も違うケースや,ある保険会社は見積りを提示したが別の保険会社は引受を謝絶するというケースも稀ではない。
よって,D&O保険の見積りを取る際は,複数の保険会社から見積りを取るということも有力な選択肢となる。
第2節 D&O保険見積りのために提供すべきデータ
保険会社がD&O保険の見積りを行うにあたって保険契約者に対してどのような資料・情報の提供を求めるかは保険会社によって相違するが,次のような資料・情報の提供が要請されるのが一般的である。
1 直近の有価証券報告書等
記名法人となるべき会社について,有価証券報告書が作成されている場合はその提出が求められる。
有価証券報告書を作成していない会社については直近2期分の決算報告書など決算内容が分かる資料の提出が求められる。
決算時期から有価証券報告書の完成までにはある程度の時間がかかることから,その間にD&O保険の見積りを依頼する場合には決算短信の提出が求められる場合もある。
2 告知書
D&O保険の見積りを依頼するにあたっては告知書の提出が求められるのが一般的である(※ 告知書の提出がない段階で便宜上保険会社が概算見積りを提示することはあるが,正式見積りのためにはやはり告知書の提出が求められる)。
保険契約者・被保険者の故意・重過失によって告知書に虚偽の事項が記載されている場合には,告知義務違反として保険会社からの契約解除権が発生する可能性も生じるので(普通約款11条),告知書の記載は慎重に行う必要がある。
実際上,告知書の作成は会社の中でD&O保険の契約締結手続を担当するセクションの者が作成することが多いと考えられるが,複数存在する被保険者の1人でもその告知書記載事項が誤りであることを知っていた場合には告知義務違反となる可能性がある。
よって,保険会社に提出する告知書の記載内容を確定するにあたっては少なくとも現職の会社役員全員の了解を取り付ける程度の慎重さが欲しいところである。
告知書においてどのような事項の記載が要求されるかは保険会社毎に異なるが,概ね次のような事項の記載が求められる。
(1) 会社に関する基本的情報
記名法人及び記名子会社の名称,所在地,国籍,事業の内容,設立年月日,株式上場の有無・上場している市場名,現在の会社役員の役職・人数等の基本的情報の記載が求められる。有価証券報告書や決算報告書を提出していない記名子会社については総資産等の基本的な財務データの記載が求められる。
(2) 株式に関する事項
発行済株式総数,株主総数,会社役員による持株比率,大株主の名称・持株割合等の株式に関する事項の記載が求められる。
(3) 北米地域での活動実態
北米地域(※ 具体的には米国及びカナダ)は保険上のリスクが非常に高いとされていることから,北米地域において支店その他の設備を所有しているか,現地子会社を有しているか,北米地域において資金調達行為をしているか等の活動実態の記載が求められる。
(4) 会社についての重要事項の変更
過去及び近い将来の予定として,会社の名称変更,会社の合併・分割,子会社の譲渡・取得,営業譲渡,新株発行があるか否かについての記載が求められる。
(5) クレームに関する事項
現在又は過去における会社・会社役員に対する損害賠償請求訴訟の有無・内容,将来的な損害賠償請求につながる可能性のあるトラブルの有無・内容等の記載が求められる。
(6) 別のD&O保険契約
現在別のD&O保険契約に加入しているか否か及びその契約条件の記載が求められる。
3 その他
英文のアニュアルレポートや会社概要を作成している場合は,その提出が求められる場合がある。
第3節 保険料見積書の見方
以下にD&O保険の見積書の一例を示す。内容はもちろん架空の保険契約であり,書式も特定の保険会社の見積書の書式によるものではないが,保険会社が提示する保険料見積書には概ねこの見積書に含まれているような要素が盛り込まれているはずである。
「
平成○○年○○月○○日
○○株式会社 御中
△△損害保険株式会社
D&O保険お見積り書
D&O保険の保険料を下記のとおりお見積りさせていただきましたので宜しくご検討ください。
| 記名法人 | ○○株式会社 |
| 記名子会社 | なし |
| 被保険者となる役員の範囲 | 取締役及び監査役 |
| 保険期間 | 平成17年7月1日〜平成18年7月1日(1年間) |
| 初年度契約の始期日(遡及日) | 平成6年7月1日 |
| 証券適用地域 | 全世界 |
| てん補限度額 | 10億円 |
| 免責金額 | 被保険者1名につき200,000円/同一の行為に基づく全ての損害賠償請求について,1,000,000円 |
| 縮小てん補割合 | 95% |
| 大株主割合 | 5% |
| 適用約款 | 会社役員賠償責任保険普通保険約款および次の特約条項
[1]株主代表訴訟担保特約条項
[2]保険契約に関する損害賠償請求不担保特約条項
[3]テロ・戦争免責特約条項
[4]キャプティブ保険会社に関する損害賠償請求不担保特約条項
[5]原子力損害不担保特約条項
[6]2000年問題に関する免責特約条項
[7]テロ・戦争免責特約条項 |
保険料:
| 会社負担分 | 4,500,000円 |
| 役員負担分 | 500,000円 |
| 合計 | 5,000,000円 |
」
(解説)
- 「記名法人」…記名法人の役員は全員被保険者になる。通常はこの記名法人が保険契約者となる。
- 「記名子会社」…記名法人が子会社を保有している場合,これを記名子会社に指定することができ,記名子会社に指定された会社の役員も全員被保険者になる。子会社を保有していても記名子会社に指定しないことは差し支えなく,複数の子会社のうちの一部の会社のみを記名子会社に指定することも可能である。
- 「被保険者となる役員の範囲」…D&O保険の被保険者となるのは記名法人・記名子会社の役員であるが,その役員の範囲を定めるものである。取締役及び監査役は必ず役員の範囲に含まれるが,さらに執行役,執行役員,海外子会社のofficerなどが指定されうる。
- 「保険期間」…通常1年間であり,保険期間中に被保険者に対してなされた損害賠償請求のみが保険金支払対象となる。
- 「初年度契約の始期日(遡及日)」…この日よりも前に行われた会社役員の行為に起因する損害賠償請求はたとえ保険期間中になされた損害賠償請求であっても保険金の支払対象外となる。
- 「証券適用地域」…通常は全世界担保か日本国内のみ担保のいずれかである(その他の定め方ができない訳ではない)。全世界担保ではない場合,いかなる場合が保険金支払の対象とされるのかを確認しておく必要がある。例えば,日本国内のみ担保の場合,損害賠償請求が日本国内でなされれば足りるのか,原因となる役員の行為も日本国内でなされることを要するかなどを確認する必要がある(通常は附帯特約条項により定められるものと考えられる)。
- 「てん補限度額」…保険事故が発生した場合の保険金の支払い限度額である。
- 「免責金額」…保険事故により発生した損害額のうち被保険者自身が自己負担しなければならない金額である。
- 「縮小てん補割合」…保険事故により発生した損害額のうちこの割合部分のみが保険金支払対象となる(その他の部分は被保険者の自己負担となる)。
- 「大株主割合」…この割合以上の持株割合となる株式を保有している株主が提起した損害賠償請求は保険金支払対象外となる。
- 「適用約款」…会社役員賠償責任保険普通保険約款及び株主代表訴訟担保特約条項は必ず適用される。その他にどのような特約条項が附帯されるかは場合による。会社役員賠償責任保険普通保険約款,株主代表訴訟担保特約条項及び会社補償担保特約条項以外の約款(特約条項)は基本的に各保険会社の独自作成によるものであるから,具体的にどのような内容を定める約款であるかを知るにはそれを作成・附帯した各保険会社に照会するより他ない。
- 「保険料」…保険金の掛け金である。会社負担分とされている金額は通常保険契約者となる記名法人が負担して差し支えないが,役員負担分とされている金額は被保険者となる会社役員が個人負担しなければならないとされている。役員負担分の金額表示は,複数の役員が負担すべき合計金額としての表示であり,役員1名あたりの負担額ではない。
第4節 代理店扱い・直扱い
一般に,損害保険契約は保険会社との間で代理店委託契約を締結した損害保険代理店が保険会社を代理して保険契約者と締結する形態で募集されることが多い。
このような契約の取扱いを代理店扱いと呼ぶ。
保険会社は,締結された保険契約の保険料に一定割合を乗じて得られた金額を代理店手数料として代理店に支払う。
この一定割合を代理店手数料割合と言い,当該保険契約の種類等に応じて定められている。
保険会社は,このような代理店扱いによることなく保険会社自ら直接保険契約締結の当事者となる形態で保険契約を募集することも可能である。
代理店を介さない保険契約の募集を直扱い(※ 保険会社によって「じきあつかい」と読んだり「ちょくあつかい」と読んだりするようである)と言う。
損害保険会社は幅広い客層に対して保険商品を販売したいと考えていることから,販路拡張の観点に基づいて多数の優良な損害保険代理店を通じて保険契約を募集することを志向している。
よって,損害保険商品の取扱いは従来から代理店扱いとされるのが原則的な募集形態であり,保険会社は代理店に対して自社の損害保険商品をより多く販売してもらうことを依頼する立場にある。
このような状況の中で損害保険会社が自ら直扱い契約をしたのでは,代理店から顧客を奪ってしまうことにもなりかねないし,保険契約手続や保険契約の管理等を保険会社自ら行う必要が生じることから,保険会社は保険商品の取扱いをあまり直扱いとしたがらない傾向にある。
D&O保険の取扱いにおいても,代理店扱いと直扱いの2通りが可能であるが,D&O保険については,他の保険契約と比較して直扱いである契約の比率が高いように思われる。
というのは,代理扱いにすると保険契約締結に際して保険契約者が保険会社に対して提出する資料が代理店の目に触れることになり,また実際に保険契約をした際の保険条件も当然代理店が知るところとなるから,D&O保険の調達および当該D&O保険の保険条件をできる限り秘密にしておきたい契約者にとっては,代理店に知られずD&O保険を調達するためには直扱いの方が都合が良いからである。
また,D&O保険のように,保険会社が引受の可否,引き受け条件について個別に審査・決定する類の保険商品については,代理店が自らの裁量に基づいて保険条件を決定して保険契約者に保険商品を提案するという余地が少なく(※ 法的な概念としての代理においては,代理人に意思決定権限があり,授与された代理権の範囲内という制約はあるものの,その中で一定の裁量権が認められるとされる。),代理店扱いとする意義が小さいということも直扱いが多い理由として挙げられよう。
代理店扱いとしても直扱いとしても保険契約締結の当事者は保険契約者と保険会社であるから,両者の間に保険カバーの差は全くない。
保険料については2通りの考え方がある。
直扱いの場合は保険会社が代理店に支払う代理店手数料が不要となるが,他方で保険会社自ら保険契約の締結手続を行い,保険契約を管理しなければならないという手間がかかることから,いずれの扱いであっても保険契約者が支払うべき保険料は同じであるという考え方が1つである。
もう1つは,D&O保険の場合,代理店任せにできる部分が少なく,代理店扱いにしたとしても保険会社が自ら契約をコントロールしなければならない側面も多く,直扱いにする場合と大差がないことから,直扱いの場合は代理店手数料に相当する金額の限度で事実上保険料を割り引くことができるとする考え方である。
第5節 共同保険
保険会社の保険引受能力(引受キャパシティー)が有限であることを前提に,できる限り高額なてん補限度額の保険契約を調達する手法として,共同保険という手法がある。
共同保険とは,1つの保険契約について複数の保険会社が引受保険会社となり,それぞれの引受割合(シェア)に応じて保険料を収受し保険金支払責任を負うという保険契約形態をいう。
各引受保険会社ごとの引受割合はその合計額が100%となるように契約締結時に定められ,保険事故発生時には各引受保険会社は生じた損害額に自社の引受割合を乗じた金額を保険金として支払うことになる。事務的には複数の引受保険会社のうちの1社が幹事会社となり,その幹事会社が引受保険会社を代表して保険契約の締結手続,保険証券発行手続,保険金請求手続を行うという形が取られる。
このような共同保険方式を用いれば,例えばてん補限度額50億円の契約であったとしても,保険会社5社が20%ずつの引受割合により共同保険方式で引き受けることにより各社の責任額は10億円ずつということになり,各社の引受能力の範囲内として引受可能になる可能性が高まる。
しかし,D&O保険において,このような共同保険の利用のされ方はあまりなされていない。
D&O保険の引受に際して,保険会社は契約者になろうとする会社から様々な情報の提供を求め,その情報に基づいて保険引受可否の判断及び保険条件の決定を行っている。 そして,D&O保険の引受の際に提供を求められる情報の種類は,会社が合併,営業との予定を有しているか,株主代表訴訟の火種となりかねない紛争を現に抱えていないかといった,会社にとってはトップシークレットに近い情報の提供を求められる。
また,D&O保険の契約締結の事実やそのD&O保険の具体的保険条件なども会社としてはあまり開示したがらない傾向にある。共同保険方式により引受保険会社を増やすことは,それだけ情報を提供しなければならない保険会社が増加することを意味する訳であり,極秘情報を秘密のまま保持したい会社にとっては,情報の提供先が増加することはできる限り避けたいと考えるのが自然であり,普段取引のない損害保険会社に情報を提供することには躊躇されることがある。
他方,保険会社の側としても,自社が幹事保険会社である場合は契約締結の手続その他契約者との折衝を行う関係上,契約者との間に緊密な関係を保つことができ情報の入手が容易であるが,幹事保険会社以外の保険会社は,契約者との間の直接的接触の機会が乏しく,契約者に関する情報入手が困難であるため,保険会社側にとっては好ましくない。よって,D&O保険については共同保険方式の引受はあまり利用されていない。
ところで,D&O保険を離れて損害保険商品全般に目を転ずると,共同保険方式による引受は時折見受けられ,特に大企業が保険契約者となる契約においては共同保険方式による引受例も多いが,共同保険方式とした動機は複数保険会社の引受能力を集積することによる保険責任限度額の増大を目的とするものではないことが多い。
大企業には数多くの保険ニーズがあり,多数の損害保険契約を締結していることが多いが,その全てを1つの損害保険会社だけで締結していることは少なく,複数の損害保険会社を使い分けていることが多い。そのような場合に,保険料の大きい契約については1社単独の契約とするのではなく,他の取引損害保険会社の顔も立てるという意味で共同保険方式として複数の取引損害保険会社を引受保険会社とする例が良く見られる。
損害保険実務上共同保険方式による引受がなされている場合の大半が,このような事情に基づく共同保険である。D&O保険についてもこの種の共同保険がなされている場合はある。
てん補限度額がそれほど高額ではないのに共同保険方式となっている場合は大体これである。
第6節 上乗せ保険方式
複数の損害保険会社の引受能力を集積することによって高額なてん補限度額を実現する方法としては,上記の共同保険方式の他に,上乗せ保険方式(エクセス=excess方式)がある。
これは,1つの保険契約のてん補限度額を超過する損害についてのみ保険金支払対象とする別の保険契約を締結することにより,複数の保険契約を併せて高額なてん補限度額を実現する方式をいう。下積みとなる保険契約を第一次保険(アンダーライイング・ポリシー,上乗せとなる保険契約を超過額保険(エクセス・ポリシー)と呼ぶ。
例えば,第一次保険としててん補限度額10億円のD&O保険契約を締結し,同時に超過額保険として,10億円を超える損害額についてのみ保険金支払対象とするてん補限度額15億円のD&O保険契約を締結すれば,2つの保険契約を合わせて合計25億円のてん補限度額のD&O保険契約を締結したのと同じ効果が得られる。
保険会社によっては,D&O保険についてこのような超過額保険を積極的に販売しているところもある。
第7節 保険期間中途での保険条件変更
保険期間の中途でてん補限度額を増額したり,保険の対象とする記名子会社を追加したりしたい場合がある。
D&O保険の保険期間は1年間であるから,その1年間が終了して次の年度の契約を締結する際にこのような保険条件の変更をすることも可能であるが,保険契約者と保険会社との合意が成立する限り保険期間中とでこのような条件変更をすることも可能であるし,実際に変更されているケースはある。
変更する場合の方法は大きく分けて2通りある。
1つ目は異動処理と呼ばれる方法であり,これは現在有効な保険契約に条件変更の裏書処理をすることによって保険契約の同一性を保ったまま以後の保険条件を変更する方法である。
もう1つは中途更改処理と呼ばれる方法であり,これは現在有効な保険契約を保険期間の中途で解約し,解約時をもって保険条件を変更した新たな別の保険契約を締結する方法である。
保険料については,異動処理の場合,異動後の残存保険期間の長短及び異動後の担保危険の拡大・縮小に応じた保険料が追徴または返還されることとなり,中途更改処理の場合,解約された契約について残存保険期間に応じた保険料が返還され,新たな保険契約について条件に見合った保険料が徴収されることになる。
異動処理,中途更改処理のいずれの方式によるかに基づく本質的な差異はなく,いずれの方式によるにせよ,変更後の保険条件をどのように設定するかは保険契約者及び保険会社の合意に基づいて自由に決定しうる。
両方式の実務上の相違点としては中途更改方式の場合は保険期間が元の契約の保険期間とずれるという程度の差があるのみである。
保険条件を従来よりも拡張する場合,拡張部分に着目すればこの部分は新たにD&O保険を契約するのと同様の性質を有していることになる。
よって,この部分についてはD&O保険の新規契約を締結する場合と同様の問題が生じることになる。
例えば,低いてん補限度額で契約してきたが,今般社内でトラブルが発生したため将来の保険事故にそなえててん補限度額を増額するといったモラルハザードが混入するおそれがある。
そこで,保険会社は保険期間中途での保険条件変更の際にも保険契約締結の場合と同様に告知書やその時点での財務諸表等の提出を保険契約者に対して求めることがある。
変更後の保険条件について確認しておくべき点として,どの時点の役員の行為に起因する損害賠償請求についてその新条件が適用されるのかという点がある。
条件設定の仕方として,変更後に発生した損害賠償請求については全て新条件が適用されるという取扱いもありうるが,場合によっては変更後の役員の行為に起因する損害賠償請求についてのみ新条件が適用され,変更後に発生した損害賠償請求であってもその原因となる役員の行為が変更前の行為である場合は旧条件が適用されるという取扱いもありうる。
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