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神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第8章 保険契約者または被保険者の義務
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第8章 保険契約者または被保険者の義務
第1節 告知義務
第1款 告知義務違反の効果

告知義務とは,保険契約締結の際に,保険会社に対して真実を申告し不実を申告してはならない義務を言う。 保険契約者・被保険者の告知義務について普通約款11条1項は,次の通り定めている。

(告知義務) 第11条 保険契約締結の当時,保険契約者,被保険者またはこれらの者の代理人が,故意または重大な過失によって,保険契約申込書およびその付属書類(以下「保険契約申込書等」といいます。)の記載事項中重要な事項について,当会社に知っている事実を告げずまたは不実のことを告げた場合には,当会社は,保険証券に記載された保険契約者の住所にあてて発する書面による通知をもって,この保険契約を解除することができます。

保険契約締結後の通知義務を定める12条では通知義務があることを直接的に規定しているが,本条は「告知義務」というタイトルでありながら,告知義務違反があった場合の効果を定めることにより間接的に告知義務があることを示唆するに留まっている。これは,告知義務が保険契約が未だ成立する前の義務であり厳密に言えば「保険契約者」「被保険者」の義務とは言えないことに由来するものであろう。
保険会社は具体的な保険契約の申し込みを受け,その保険契約を引き受けるか否か,引き受けるとしてどのような保険条件で引き受けるかを判断する際に,判断材料とするための情報を必要とするが,その情報の多くは保険契約者・被保険者から入手することになる。
この情報が誤っていれば保険会社が判断を誤ることになり本来であれば引受を謝絶すべきであると考える保険契約を引き受けたり,本来はより高い保険料で引き受けるべきであった保険契約を安い保険料で引き受けたりするという事態が生じることになる。
しかし,このような事態を放置して保険会社が引き受けた通りの保険契約に基づく保険金支払義務をそのまま認めるならば不都合な結果が生じる。
そこで,損害保険の一般的取扱いとして,保険契約が有効に存続しうるための要件として,保険契約者・被保険者となるべき者に保険契約締結にあたって保険会社に対して正確な情報を告知すべき義務(告知義務)を認め,告知義務違反があった場合は保険会社の側に保険契約に基づく保険金支払義務を免れる手段を与えるという取扱いが採用されている(※ 商法644条及び645条にも告知義務違反に関する規定が置かれているが,告知義務違反については「重要ナル事実ヲ告ケス又ハ重要ナル事項ニ付キ不実ノ事ヲ告ケタルトキハ」という抽象的な表現が用いられるなど不十分な規定に留まっている)。 本条項に基づく告知義務違反の効果として,保険会社には保険契約の解除権が認められることになる。なお,この解除権が行使された場合,保険料は一切返戻されない(普通約款18条1項)。

第2款 告知義務違反の例外規定

普通約款11条2項は,同1項の例外として次の通り定めている。

(告知義務)
第11条 …
2.前項の規定は,次の各号の場合には適用しません。
(1) 前項の告げなかった事実または告げた不実のことがなくなった場合
(2) 当会社が保険契約締結の当時,前項の告げなかった事実もしくは告げた不実のことを知り,または過失によってこれを知らなかった場合
(3) 保険契約者,被保険者またはこれらの者の代理人が,損害賠償請求がなされる前に保険契約申込書等の記載事項中重要な事項について,書面をもって更正を当会社に申し出て,当会社がこれを承認した場合。なお,当会社は,更正の申し出を受けた場合において,保険契約締結の当時,保険契約者,被保険者またはこれらの者の代理人が更正すべき事実を当会社に告げたとしても当会社が保険契約を締結していたと認めるときに限り,これを承認するものとします。
(4) 当会社が前項の告げなかった事実または告げた不実のことを知った日から保険契約を解除せずに30日を経過した場合

告知義務違反があったとしても,その後の事情変更により告知しなかった事実または告知した不実のことが結果的になくなれば告知義務違反による弊害は消滅することから保険会社の契約解除権は認められない(第1号)。
また,保険契約締結時に告知義務違反の事実を保険会社が知り又は知り得べきであった場合は,保険会社は保険契約締結を拒否したり相応の保険条件を定めるなどの適切な措置を取りうるのであるから,仮にそのような適切な措置を取らずに保険契約を締結したとしても保険会社の契約解除権は認められない(第2号)。
次に,告知義務違反による保険会社の契約解除権は保険会社の利益のために認められたものであるから,保険事故が発生する前に告知しなかった事実または告知した不実のことが訂正され,これを保険会社自身が不利益がないものとして承認した場合には保険会社の契約解除権は認められない(第3号)。
なお,保険会社はこの承認を行うに際して必要に応じて追加保険料を請求することができる(普通約款16条1項)。
また,告知義務違反があったことを保険会社が保険契約締結後に知った場合において,いつでも任意の時期に保険会社が契約解除しうるならば保険契約者の地位があまりにも不安定になることから,告知義務違反を知った日から30日を経過した場合は保険会社の契約解除権は認められない(第4号)。

第3款 告知義務違反による解除前の事故

普通約款11条3項は,告知義務違反による解除前に発生した保険事故について次の通り規定している。

(告知義務)
第11条 …
3.損害賠償請求がなされた後に第1項の解除がなされた場合でも,当会社は,第14条(保険契約解除の効力)の規定にかかわらず損害をてん補しません。すでに損害をてん補していたときは,当会社は,その返還を請求することができます。

本項にいう「損害賠償請求」とは被保険者に対する損害賠償請求を指す。
D&O保険における保険契約解除は,将来に向かってのみその効力を生じるのが原則である(普通約款14条)。
しかし,告知義務違反に基づく契約解除についてまでこの原則を適用すると,被保険者に対する損害賠償請求が発生した後に告知義務違反のあったことが発覚した場合,その後に保険会社が保険契約を解除したとしてもその効力は当該損害賠償請求時点には及ばず保険会社は保険金を支払う義務を負うことになり,告知義務違反に基づく契約解除の効果が阻害されることになる。
そこで,普通約款11条3項は,告知義務違反に基づく契約解除がなされた場合は解除の将来効を定めた普通約款14条にもかかわらず解除前に発生した被保険者に対する損害賠償請求についても保険会社は保険金支払義務を負わないこととしている。
そして,既に保険金を支払っていた場合は,保険会社はその返還を請求することができるものとされている。

第2節 通知義務
第1款 通知義務の内容

通知義務とは,保険契約締結後,保険条件として定められた事項や保険上の危険に影響を及ぼす重要な事項に変更があった場合に,その変更があった事実を保険会社に申告する義務を言う。
保険契約者・被保険者の告知義務について普通約款12条1項は,次の通り定めている。

(通知義務)
第12条 保険契約締結後,次の各号の事実が発生した場合には,保険契約者または被保険者は,事実の発生がその責めに帰すべき事由によるときはあらかじめ,責めに帰すことのできない事由によるときはその発生を知った後,遅滞なく,書面によりその旨を当会社に通知し,保険証券に承認の裏書を請求しなければなりません。ただし,その変更の事実がなくなった後はこの限りではありません。
(1) 保険契約申込書等または保険証券に記載された事項の変更
(2) この保険契約と重複する他の保険契約の締結 …

保険期間の中途における事情変更により保険事故が発生するおそれが著しく増大した場合は,保険契約締結当時の保険条件を保険会社に強要し続けることが公平性を欠く場合が考えられる。
また,保険期間の中途で重複保険契約が出現するに至った場合は,この事実が保険会社に対して伝えられないと,重複保険相互間での支払保険金の調整がなされないままに同一の損害に対して複数の保険契約から保険金が支払われる結果,被保険者が被った損害額を超える保険金が支払われる可能性が生じる。このような事態は保険金の不正請求も誘引するおそれがある。
以上のような理由により,損害保険では一般に本条項のように保険期間の中途で保険証券記載事項その他の重要事項についての事情変更があった場合や重複保険の締結がなされた場合には保険契約者・被保険者に通知義務を課し,保険会社が必要な措置を取るための機会を与えている。
保険会社は本条項1号の事由に対して承認をするにあたっては,必要に応じて追加保険料を請求することができ(普通約款16条1項),追加保険料を徴収しても保険契約を維持できないほど著しく危険が増加したと判断するときは保険契約を解除することもできる(普通約款13条1項1号)。
また,保険会社は本条項2号の事由があったときは保険契約を解除することができる(普通約款13条1項2号)。

第2款 通知義務違反の効果

通知義務違反の効果について普通約款12条2項は,次の通り定めている。

(通知義務)
第12条 …
2.前項の手続を怠った場合には,当会社は,前項の事実が発生した時または保険契約者もしくは被保険者がその発生を知った時から当会社が前項の承認裏書請求書を受領するまでの間になされた損害賠償請求に起因する損害をてん補しません。ただし,前項第1号の事実が発生した場合において,変更後の保険料が変更前の保険料より高くならないと当会社が認めたときは,この限りではありません。

本項は,通知義務が発生してから通知が実際に履行されるまでの間に発生した保険事故については保険金を支払わない旨を定めるものである。
よって,「前項の事実が発生した時または保険契約者もしくは被保険者がその発生を知った時」とは,事実の発生が保険契約者または被保険者の責めに帰すべき事由によるときは事実が発生した時であり,責めに帰すことのできない事由によるときは保険契約者または被保険者がその発生を知った時の意味に解すべきである。
また,本項の損害賠償請求とは被保険者に対する損害賠償請求の意味である。
前項1号において,保険期間の中途における事情変更を通知義務の対象とした趣旨は,保険事故が発生するおそれが著しく増大した場合に保険会社が必要な措置を取る機会を与える点にあるから,保険事故発生のおそれが増大していない場合は通知義務違反として取扱う必要はない。
そして,保険事故発生のおそれが増大していないのであれば,それについて追加保険料を徴収する必要もない。そこで,本項但書は前項の承認を保険会社がするにあたっての追加保険料の請求(普通約款16条1項)が生じない場合は,通知がなされるまでの保険事故についての保険金不払いという取扱いをしない旨を定めたものである。

第3節 保険会社の調査への協力義務

普通約款19条は,保険会社による調査について次の通り定めている。

(当会社による調査)
第19条 当会社は,保険期間中いつでも,保険契約者または被保険者の同意を得て,保険契約申込書等に記載された事項ならびに第8条(てん補しない損害−その4)第2項および第12条(通知義務)第1項の規定により通知された事項に関して必要な調査をすることができます。
2.保険契約者または被保険者が,正当な理由なく前項の調査に協力しなかったときは,当会社は,保険証券に記載された保険契約者の住所にあてて発する書面による通知をもって,この保険契約を解除することができます。

保険会社は保険契約引受時にも引受の可否及び引き受ける場合の保険条件をどのように設定すべきかを判断するために保険契約者・被保険者から申告を受けた事項その他の事項について調査をするが,本条は保険期間中であっても保険会社が必要に応じて調査することができることを規定したものである。
調査対象事項は,A保険契約申込書等に記載された事項,B普通約款8条2項により通知された事項(a記名法人の第三者との合併,b記名法人の資産全ての第三者への譲渡又はc第三者が記名法人の発行済株式総数の50%を超える株式を取得すること)及びC普通約款12条1項により通知された事項(a保険契約締結後の保険契約申込書等又は保険証券に記載された事項の変更又はb保険契約締結後の重複保険契約の締結)である。
本条に基づいて保険会社が調査を行うに際しては,保険契約者又は被保険者の同意が必要であるから(1項),保険会社の職員が無断で保険契約者の事務所や施設に入り込んで調査をするようなことはできないが,保険契約者又は被保険者が正当な理由なく調査に協力しなかった場合には保険会社は保険契約を解除することができる(2項)。