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第7章 保険料
第1節 D&O保険における保険料決定の仕組み
損害保険会社の営業活動は保険業法による規制を受け,保険会社が販売する保険商品については内閣総理大臣の認可等による規制を受けているが,規制の程度は保険商品ごとに差がありD&O保険についての規制は緩やかであって各保険会社の自主的・裁量的判断に委ねられている領域が広い。
D&O保険の保険料について言えば,諸般の要素を考慮した上での保険会社の個別判断に基づいて自由に保険料を定めることができるものとされている。
保険会社側には保険料を提示すべき義務すらなく,保険会社がD&O保険を引き受けたくないと判断する場合は保険料見積依頼があったとしてもこれに応じないことも可能である。
他方,D&O保険の保険契約者になろうとする者の側にしても,保険会社が提示する保険料で納得する場合は保険契約締結に至ることになろうが,納得しなければ保険契約締結を拒否するということになる。
すなわち,D&O保険の保険料見積りから契約締結に至る過程は民法上の原則である契約自由の原則が支配しており,その実態は企業間の一般的商取引とあまり変わらない(※ 損害保険契約の中でこのような契約自由の原則が支配している領域と対極にあるのが,一般的に強制保険,自賠責保険と呼ばれている自動車賠償責任保険の契約がある。
自動車賠償責任保険の保険料は対象とする自動車の車種等に応じた保険料が予め定められており,この保険の申込があった場合は法律上保険会社に引受義務が認められている)。
第2節 保険会社によって異なる保険料
上記の通り,D&O保険の保険料は保険会社の個別判断に基づいて自由に定めることができるのであるから,複数の保険会社が全く同じ情報を与えられてD&O保険料の見積りをする場合であっても,各社ごとの判断の相違により結果として提示される保険料も異なってくることが十分考えられる。
生命保険,自動車保険,住宅向け火災保険などのように,保険料決定の際に参考とすべき過去の統計データがある程度利用できる保険商品であれば,これに基づいて保険料を決定するのが基本になるから,どの保険会社が提示する保険料もそれほど大きな差は生じないであろうが,D&O保険についてはそのような利用可能な過去の統計データはほとんど存在せず,未来に対する不確かな予測及びそれに対する評価に基づいて保険料を決定せざるをえないという要素が強いことから,予測・評価の相違により各保険会社が提示する保険料に大きな差が生じることも稀ではない。
従って,D&O保険の保険料見積りを保険会社から取り付ける場合は,複数の保険会社から見積りを取り付けるという方法も有力な選択肢となる。
ただし,D&O保険の保険料見積りや契約締結にあたっては,企業秘密に属するような事項についてまで保険会社に対して申告することを求められるので,社内の情報をみだりに外部に流出させたくないという観点から,保険会社は普段取引のある保険会社に決めた上で当該保険会社との交渉によりできる限り有利な保険条件を引き出すという方法も考えられるところである。
第3節 保険会社との交渉
前述の通り,D&O保険の保険料見積りから契約締結に至る過程が企業間の一般的商取引とあまり変わらないというのであれば,一般的商取引において当事者間の商談次第で取引条件が変わるように,D&O保険の保険条件も保険会社と保険契約者との間の交渉によって変化しうるはずであり,実際にこのような側面はある。自動車保険や住宅向け火災保険のような一般大衆向けの保険については交渉によって保険条件が変わるという事態はまず発生しないが,D&O保険のように保険会社側の自由裁量の余地が大きい保険商品についてはこのような交渉の余地がある。
保険会社も営利企業であり,保険契約を多く獲得することで利益を上げていることから,特定の優良な保険契約者を巡って複数の保険会社でD&O保険契約の奪い合いになれば,他社対抗上値引きをするというケースもありうる(※ 自社として許容しうる最低限度の保険料水準は下回らない範囲でという限定はもちろんある)。
ただ,保険契約者の側からしても,単年度の保険料水準の低さのみに過度に執着することも妥当でないと思われる。D&O保険に限らず損害保険契約の保険期間は一般的に1年間という短い期間であり,1年ごとに更新されて継続されることを想定している。
よって,保険契約者が将来にわたって安定的な保険カバーを獲得しようと考えるならば,単年度の保険条件のみに目を奪われることなく,当該保険条件が保険会社の側から今後も安定的に得られるかどうかという点も考慮すべきである。あまりに保険会社側にとって余裕のない保険条件である場合,将来の事情変更により容易に保険条件が変動したり保険会社の側が引受を謝絶したりする可能性が高まる。
このような事態は長期にわたるコスト負担の平準化を図るという保険の機能に照らせば決して好ましいものではない。
第4節 保険料の決定要素
どのような要素に基づいてD&O保険の保険料を決定するかは,保険会社ごとの独自判断に委ねられているであり,保険料決定にあたって従わなければならないルールが存在するわけではない。
しかし,一般的に保険会社がどのような要素に着目し逆にあまり着目せずに保険料を決定しているかという大まかな傾向は認められる。
一般的にD&O保険の保険料水準に影響を与える主な要素としては次のようなものがある。
- 記名法人の業種,規模,株式の公開程度,財務状況
- (記名)子会社の有無,数,業種,規模,株式の公開程度,財務状況,所在地域等
- 北米地域における活動の有無,程度
- 設定される保険条件によって提供される保険カバーが広いか狭いか
- 再保険状況
- 最低保険料規定
以下,実務上重視され又は問題となるいくつかの要素につきコメントする。
第1款 記名法人の業種,規模,株式の公開程度,財務状況等
記名法人の業種としては,メーカーの場合は保険料が安く,銀行,証券,ノンバンク,保険会社,信用金庫等の金融機関では保険料が高くなる傾向にある。 商社,サービス業等はその中間に位置づけられる。
また,当然のことであるが,記名法人の会社としての規模が大きいほど保険料が高くなる傾向にある。
次に,会社の株式については不特定多数人に広く行き渡っている場合の方が株主代表訴訟リスクが高いことから保険料が高くなる傾向にある。
よって,一般に上場企業の方が非上場企業よりも保険料水準が高い。
特定少数の株主しか存在しない場合は,安定株主である場合が多いので株主代表訴訟リスクは一般的に低いと考えられるし,仮に株主代表訴訟が提起されたとしても大株主免責(普通約款6条10号)に該当して保険金支払の対象とならない可能性も高いことからD&O保険上はやはりリスクが低いと見ることができる。
したがって,特定少数の株主しか存在しない会社については保険料水準が低くなる傾向にある。
会社の財務状況については,財務状況が良好である場合は会社が対外的にトラブルを抱える可能性が低く,株主も会社経営に対して不満を抱く可能性が低くなるので会社役員が責任を追及されるシーンが少なくなると考えられることから,保険料水準が低くなる傾向にある。
これに対し,財務状況が悪化している場合は対外的なトラブルの可能性が高くなると共に,株主が会社経営に対して不満を抱く可能性も高くなるので会社役員が責任を追及される可能性が強くなるので保険料水準が高くなる傾向にある。
第2款 (記名)子会社の有無,数,業種,規模,株式の公開程度,財務状況,所在地域等
記名子会社があれば,その役員が損害賠償請求を受ける可能性の分だけD&O保険上のリスクが増大することから保険料水準は高くなる。
記名子会社の数が多くなればその分保険料水準も上がる。記名子会社の業種,規模,株式の公開程度,財務状況等については記名法人についてのそれらの要素について述べたのと同様に保険料に影響しうることになる。
記名子会社は記名法人とは異なり国内のみにあるとは限らず,海外に所在することもあるので,D&Oリスクが高いと考えられる国(法域)に記名子会社がある場合は保険料水準が高くなる。典型的には北米地域(米国,カナダ)に記名子会社がある場合は保険料水準が高くなる傾向にある。
また,金融機関は一般的にD&Oリスクが高いと考えられているから,記名子会社に金融機関を含む場合には保険料水準が相応に高くなる可能性がある。
ただし,一般的には記名子会社は記名法人と比較して圧倒的に小規模であることのほうが多いから,記名子会社の各種属性が保険料に与える影響力は記名法人のそれと比較してかなり小さい。
よって,記名子会社の構成が金融機関でもない国内子会社が主体である場合,記名子会社の数が多少増減しても全体の保険料水準はほとんど変わらないこともある。
なお,記名子会社の指定がない場合であっても,子会社がある場合には子会社の運営の当否等を巡って親会社である記名法人の役員の責任が追及される可能性があることから保険料に影響が及びうる。
第3款 北米地域における活動の有無,程度
米国が訴訟社会であるという事実は広く知られている。
米国において損害賠償請求を受けるリスクは極めて高く,米国で賠償責任保険を調達しようとする場合,日本国内で同種同等の損賠償責任保険を調達する場合に要する保険料の3倍から10倍程度の保険料を用意しなければならないことも稀ではない。
米国と隣接するカナダにおいてはその実態において米国ほど高度な損害賠償リスクはないようであるが,地域的に米国と一体に捉えられ北米地域としてリスクが高めに評価されるのが一般的傾向である。
よって,北米地域(米国,カナダ)における損害賠償リスクを抱える場合はD&O保険の保険料も高くなる傾向にある。
例えば,北米地域に支店を保有していたり,北米地域に子会社(記名子会社であると否とを問わない。)を保有していたり,北米地域で財産を保有していたり,北米マーケットをターゲットとして営業活動を展開していたりする場合などではD&O保険の保険料が高くなる傾向がある。
第4款 てん補限度額
てん補限度額は事故が発生した場合の保険金の支払い限度額であり,てん補限度額が高額であるほど保険料も高くなる。
ただし,いくらてん補限度額を大きく設定してみたとしても実際に生じた損害額を超える保険金は支払われないから,てん補限度額を2倍にしたからといって受け取る保険金の額が2倍になるとは限らない。
よって,てん補限度額を上げることは確実に保険料上昇に結びつくが,てん補限度額を上げても比例的に保険料が上がるわけではなく,てん補限度額を上げた比率よりも保険料の上昇率の方が低くなる。例えば,てん補限度額を3倍にしても保険料水準は2倍程度にしかならないということが起こる。
第5款 免責金額
免責金額を高額にすれば事故発生時の被保険者自己負担額が増加し支払保険金の額が少なくなるから理屈上は保険料が安くなる。
しかし,D&O保険において設定される実務的な免責金額の水準は数十万円・数百万円というレベルであり,保険事故発生時に想定される10億円規模の損害額の水準と比べて極めて低い水準で設定されていることから,免責金額を多少上下させても保険料に与える影響はそれほど大きくない。 実務的ではないが,仮に数千万円,数億円という水準の免責金額を設定すれば保険料はかなり安くなるものと考えられる。
第6款 縮小てん補割合
D&O保険における支払保険金の額の計算方法によれば,損害額のうち免責金額を超過する部分に対して縮小てん補割合を乗じた額がてん補限度額を超過しない限り,縮小てん補割合は支払われる保険金の額に直接的に影響を及ぼすから,縮小てん補割合を小さくすれば相当な割合で保険料も安くなることになる。
しかし,縮小てん補割合は実務上95%で設定されることが圧倒的に多く,保険料を安くするために縮小てん補割合を95%よりも低くするという選択肢は実際上好まれないように思われる。
第7款 担保地域
担保地域設定についての実務上の選択肢は全世界担保と日本国内のみ担保のほぼ2種類であるが,当然のことながら他の条件が同じであれば全世界担保とした場合の方が保険料は高くなる。
いずれの担保地域設定にするかによってどの程度の保険料の差が生じるかは記名法人・記名子会社が現実にどのような地域的範囲で活動しているかによる。
全く海外進出しておらずもっぱら日本国内のみで活動している会社であれば,もともと海外での保険事故はほとんど考えられないのであるから,担保地域をいずれに設定するかによって保険が発動される程度はあまり相違はなく,従って保険料にもあまり差が生じないことになる。
これに対して現実にワールドワイドで活動している企業であれば,海外での保険事故が発生する可能性は高いのであるから,担保地域を全世界担保とする方が保険が発動される程度が高くなり,従って保険料も担保地域を日本国内のみとした場合と比較して相当に高くなるものと考えられる。
第8款 附帯される特約条項
まず,株主代表訴訟担保特約条項については基本的に全てのD&O保険契約に必ず附帯されると言って差し支えないから,この特約条項を附帯した場合と附帯しない場合の保険料を比較する意味はない。
次に,会社補償担保特約条項が附帯されたD&O保険契約については,会社補償の対象とならない会社役員の損害は普通約款に基づいて保険で直接てん補され,会社補償の対象となる会社役員の損害は会社が補償を実施した上でその会社の損失が会社補償担保特約条項に基づいててん補されるという構成の相違があるだけで,保険によってカバーされる範囲に実質的な差異は認められない。
従って,会社補償制度がないため会社補償担保特約条項が付帯されない契約と,会社補償制度があるため会社補償担保特約条項が附帯される契約とではその他の条件が同じである限り保険カバーの範囲に実質的な相違点はなく保険料も同等ということになる。
仮に,会社補償制度があるにもかかわらず会社補償担保特約条項を附帯しない場合はこれを附帯した場合と比較して保険カバーの範囲が実質的に狭くなることから保険料もそれに応じて安くなることになろうが,会社補償制度がありながら会社補償担保特約条項を附帯しないという選択肢は実務的ではないと考えられる。
上記2つの特約条項以外の特約条項には様々な種類があるが,普通約款に基づく保険カバーを拡張するか縮小するかという観点から特約条項の規定を見た場合に,保険カバーを拡張するような特約条項を附帯している場合はその分保険料が高くなり,逆に保険カバーを縮小するような特約条項を附帯している場合はその分保険料が安くなる。
どの程度保険料が高くなったり安くなったりするかは,当該特約条項によりどの程度保険カバーを拡張,縮小しているかに依存する。保険カバーを大幅に拡張するような特約条項を附帯すれば保険料は大幅にアップすることになるし,極めてまれにしか想定できないような特殊なケースを免責とするために附帯されているような特約条項を附帯する場合にはあまり保険料は下がらないということになる。
第9款 保険期間
D&O保険の保険期間は通常1年間であり,1年間以外の保険期間を設定することはほとんど考えられないが,仮に1年以外の保険期間を設定するとすれば,以下の通りその期間の長短に応じて保険料の額も変わることになる。
一般に,保険期間が1年未満である場合,保険期間が1年の場合と比較して保険料が安くなるのであるが,その安くなる比率は日割り計算などの単純に期間の長短に比例させる方法ではなく,普通約款別表にも記載されている短期料率表の割合によるのが保険業界の一般的考え方である。下に短期料率表を掲げる。
短期料率表
| 既経過期間 | 割合 |
| 7日まで | 10% |
| 15日まで | 15% |
| 1か月まで | 25% |
| 2か月まで | 35% |
| 3か月まで | 45% |
| 4か月まで | 55% |
| 5か月まで | 65% |
| 6か月まで | 70% |
| 7か月まで | 75% |
| 8か月まで | 80% |
| 9か月まで | 85% |
| 10か月まで | 90% |
| 11か月まで | 95% |
| 1年まで | 100% |
これによると,例えば保険期間が6ヶ月の契約をする場合は,年間保険料の70%の保険料水準ということになる。
よって,短期料率による場合,日割計算・月割計算による保険料水準と比較すると保険契約者の側に不利な保険料水準になる。
もともと普通約款別表の短期料率表は,普通約款13条2項の規定に基づいて保険期間の中途で保険契約者の側が任意に保険契約を解除した場合の解約返戻金(※ 解約した場合に保険契約者に返還される保険料)を計算するための表である(普通約款18条3項)。
例えば,1年契約をしていた場合に保険始期から6ヶ月を経過した時点で任意に解約した場合,保険料から70%を控除した残額,すなわち30%相当額を保険契約者に返戻することになる。
そこで,この保険期間の中途における保険契約者側からの任意解約の場合との均衡を保つため,保険契約当初から1年未満の短期契約をする場合にもこの短期料率表に基づいて保険料計算がなされる。
では,保険期間が1年間よりも長い場合はどうか。
保険期間が1年間を超える契約を長期契約という。例えば,火災保険などでは長期契約を締結し保険料を一括払いする場合,年間保険料に保険期間の年数を乗じた額よりも保険料がかなり割引きされるような保険料体系が用意されている。
しかし,「第2章 保険金の支払要件 第6節 保険期間」において既に説明した通り,保険会社はD&O保険の長期契約を一般的に好まない傾向にある。
したがって,保険会社の側では1年間を超える長期契約は引き受けないという対応をすることが多いと思われるが,仮に何らかの事情により2年契約,3年契約といった長期契約になる場合も,火災保険などに見られる割引扱いはなされず単純に期間に比例した保険料とされるのが一般的取扱いであると考えられる。
第10款 大株主割合
大株主割合は通常5%で設定されるが,理屈の上ではこの割合を小さく設定すればより多くの株主が大株主として取扱われ,この大株主からの損害賠償請求はD&O保険上免責ということになるから,保険料水準は低くなる。逆に大株主割合を大きく設定すれば保険料水準が高くなることになる。
ただ,実務上は大株主割合を5%以外で設定しているケースは少なく,特に5%よりも小さく設定するケースはまず見受けられない。また,いくら大株主割合を5%より大きく設定したとしても,現実にその会社の株主構成において5%を超える持株割合の者がいないのであれば,基本的にはリスクに変わりはないから(※ 保険期間の中途で株主構成が変化した場合であっても大株主となる株主が出現しにくくなるという影響はある),保険料水準にはあまり影響を及ぼさないものと考えられる。
第11款 最低保険料
保険会社が保険料を算出するにあたっては,保険の対象とするリスクがいかに低いと評価される場合であっても最低保険料として定めた最低限の保険料水準は確保できるように保険料を定めるという取扱いをすることが通常である。
最低保険料の水準は保険商品の種類により異なるが,例えば,一般大衆向けの保険商品では1保険契約あたり数千円程度の最低保険料水準とされていることが多い。
D&O保険の最低保険料をどのように設定するかは各保険会社の判断次第ではあるが,数千円・数万円程度の低い最低保険料水準としている保険会社はあまりないのではないかと思われる。
年間保険料ベースで100万円を下回るようなD&O保険契約は時折見受けられるが,10万円を下回るような保険契約はまず見受けられず,実務的なD&O保険の保険料の最低水準としては数十万円程度であることから推測すると,D&O保険の最低保険料水準は1保険契約あたり数十万円程度であると考えられる。
また,賠償責任保険における最低保険料の定め方としては,上記のように1保険契約あたりの定額の保険料水準を定める方法ではなく又はこの方法と併用して利用される方法として,設定されるてん補限度額に対する一定割合の保険料をもって最低保険料と定める方法もある。
例えば,てん補限度額の2‰という最低保険料が定められている保険商品において,てん補限度額を1億円に設定すると最低保険料は20万円となる。
以上のような最低保険料の定めによる制約を受け,保険上のリスクが極めて低いと評価される場合であってもその低い評価には必ずしも見合わないように思われる保険料になる場合がある。
第12款 会社役員の数
保険契約者の関心事として,被保険者である会社役員の数が保険料に影響するかという質問がなされることは多い。
原則としてD&O保険の保険料の1割は会社役員の個人負担とされ,その個人負担分の保険料は複数の会社役員間で頭割りや報酬比例等の方式により各会社役員に割り振られることになるが,会社のリストラ等で会社役員が減少したにもかかわらずD&O保険の保険料が変わらないのだとすると,会社役員1名あたりの保険料負担額は増額することになる。
そこで,会社役員の人数の減少に応じて保険料は下がらないのかという趣旨で上記質問が保険会社に対してなされることになるのである。
被保険者の数が多ければそれだけ損害賠償請求の相手方となりうる者の数が増え保険事故が発生する確率も高くなることから保険料も高くなり被保険者の数が少なければ逆に保険料も安くなるという考え方にはそれなりの根拠があると言えよう。
しかし,会社の規模や対外的活動内容が同じであれば,それをいかなる人数の会社役員で運営していようが全体としてのリスクは同じではないかという理屈もまた成り立つと言える。
すなわち役員の数が多いということは全体のリスクを多人数に分散しているだけであるという考え方である。この考え方によれば,被保険者の数は保険料水準に影響がないことになる。
いずれの考え方が正しいというよりも,会社役員の人数が増減するに至った個々の会社ごとの事情ないし実態次第ということであろうが,保険会社側からの評価としては,少なくとも現職の会社役員数の増減に応じて比例的に保険料を上下させるという考え方は一般的でないように思える。
そもそも,D&O保険の被保険者は当該保険契約の保険期間中に在任している会社役員だけに限られず,D&O保険の初年度契約以降に在任していた会社役員は現時点で既に退任済みであっても被保険者とされるし,保険契約締結後に新たに会社役員に就任した者も自動的に被保険者となるのであって(普通約款3条3号),このような取扱いがなされるにあたって保険料の追徴・返戻がなされるものではない。
D&O保険における被保険者の範囲は,当該D&O保険契約締結時の会社役員と一致するものではない。よって,現在のD&O保険契約の保険料が現在の会社役員のリスクに完全対応しているものでもないから,現在の会社役員数と現在のD&O保険の保険料を直接的に結びつけることには理論的にもやや無理がある。
従って,リストラ等による会社役員数の減少がストレートに保険料の減少に結びつくことはないと考えておいたほうが良いだろう。
第5節 実務上の保険料水準
D&O保険の保険料というのは,以上に述べた通り様々な要素を各保険会社がそれぞれの考え方に基づいて保険契約者ごとに個別に算出することとなるから,それが具体的にいくらになるかはまさにケースバイケースとしか言いようがない。
しかしながら,例えば日本の産業界を代表するような一部上場企業が標準的保険条件でD&O保険を契約した場合の年間保険料が50万円以下であったり,経営堅調だが非上場の小規模メーカーのそれが1000万円を超えたりするということは通常考えられないのであって,実務上はそれなりの常識的水準というものがあるように思われる。
まず,保険料水準が最も高くなるケースは,会社が銀行,証券,ノンバンクその他の金融機関であって,会社の規模が大きい,経営状況があまり良好とは言えない,てん補限度額が高めである等の保険料が高額になる条件のいずれかを備えているような場合である。
この場合,年間保険料は1000万円を超えるような水準になりうる。金融機関以外の会社で年間保険料が1000万円を超えるとすれば,ワールドワイドに活動を展開しているような大企業であり,その他にも保険料が高額になる条件を複数具備しているような場合に限られるだろう。
その次に保険料水準が高くなるケースは,中程度の規模の金融機関であって経営状況に特に問題がないような会社が標準的な契約条件で契約するような場合である。この場合,年間保険料は500万円から1000万円程度の水準になりうる。
金融機関以外の会社で年間保険料がこのレンジになるとすれば,かなりの大企業で保険料が高額になる条件のいずれかを備えているような場合であろう。
以上の通り,年間保険料が500万円を超える場合というのはそれなりの条件を具備している契約であるから,そのような契約がD&O保険契約全体に占める割合は低い。
多くのD&O保険契約は年間保険料100万円から500万円程度のレンジに収まっており,この程度の保険料水準がD&O保険の標準的保険料水準ではないかと思われる。
現在わが国の上場企業の約8割がD&O保険に加入していると言われているが,D&O保険の主要ターゲットはこれら上場企業であるから,前述した年間保険料が500万円を超えるような条件を具備しない標準的な上場企業が標準的な保険条件でD&O保険に加入すればその年間保険料は概ね100万円から500万円程度の範囲内になることが多いと言える。
年間保険料が100万円を下回るようなD&O保険契約は皆無ではないがごく少数である。このような保険料水準になるのは,非上場の小規模企業であり経営状況に特段の問題はなく,てん補限度額も小さいなど保険料が安くなる条件を多数具備しているような場合に限られよう。
以上かなり大雑把に保険料の目安のようなものを示したが,先にも述べた通り個々具体的な契約の保険料は保険会社ごとのケースバイケースの判断に基づくから,諸般の事情に基づき必ずしも上記の目安には該当しない例外的ケースも存在しうることは念頭に置くべきである。
第6節 株主代表訴訟担保特約条項保険料の役員個人負担
第1款 主契約保険料と特約保険料
D&O保険の保険料を全額会社が支払うことは違法ではないかという見解が少なくなかったことから,このような問題点を解消するため,会社役員が株主代表訴訟を提起され会社に対して責任を負うケースに対する保険カバーを普通約款から切り離して株主代表訴訟担保特約条項で担保することとし,株主代表訴訟担保特約条項についての保険料は会社役員が自己負担すべきとの取扱いをしている。
よって,D&O保険による保険カバーは普通約款による保険カバー部分(以下,「主契約部分」と言う。)と株主代表訴訟担保特約条項による保険カバー部分(以下,「特約部分」と言う。)という2つの部分に大きく分けることができる。そして,保険会社は,D&O保険の保険料見積りを提示するにあたっては,主契約部分に対応する保険料(以下,「主契約保険料」と言う。)と特約部分に対応する保険料(以下,「特約保険料」と言う。)とを分けてそれぞれの保険料を別個に提示する取扱いにしている(※ 株主代表訴訟担保特約条項第1条の「当会社所定の保険料の支払いを条件にてん補します」という文言がこのような取扱いを暗示している。)。
よって,これらの保険料を合算した額がD&O保険契約全体の保険料ということになる。一例を示せば次の通りである。
| 主契約保険料 | 2,700,000円 |
| 特約保険料 | 300,000円 |
| 合計保険料 | 3,000,000円 |
保険会社は,このように保険料を分けて見積り提示した上で,特約保険料は会社役員が個人的に負担すべきである旨説明した上で保険契約を締結している。
主契約保険料についても会社役員が個人負担して差し支えないが,通常は主契約保険料は保険契約者である会社が負担している。
第2款 特約保険料の支払方法
株主代表訴訟担保特約条項は普通約款とは別個の契約ではなく,あくまでも1つの保険契約に付随する特約条項であるに過ぎないから,D&O保険の契約者は株主代表訴訟担保特約条項部分も含めて通常は会社である。
よって,特約保険料も含め保険会社に対して保険料を支払う法的な義務を負う者は直接的には保険契約の当事者である保険契約者すなわち通常は会社である。
保険料領収書も保険料全額について会社宛に発行されることになる(※ 会社宛の領収書ではあるが,主契約保険料相当額と特約保険料相当額との2枚に分けて保険料領収書を発行する取扱いがなされる場合はあるようである)。
従って,保険料支払の事務処理については,保険会社に対して会社が保険料全額を支払い,会社役員は特約保険料に相当する額を会社に対して支払うという方法が取られるのが一般的である。
以上のような保険料支払の事務処理をするにあたって注意すべき点は,会社が会社役員分の保険料を立替払したという状態が一時的にも生じないようにすることである。
会社役員にとって,会社に保険料部分を立て替えて貰うということは会社に対して借金をしていることと同じ状態であり,これは会社と取締役との利益相反取引を禁ずる商法265条1項に抵触する可能性が高い。
したがって,会社が保険料を支払う場合はまず会社役員からその自己負担となる特約保険料相当額部分を徴収した上で,会社負担となる主契約保険料相当額を加えてその保険料全額を保険会社に支払うという順序を守るべきである。
保険契約締結直前のあわただしい時期に多くの会社役員から保険料を徴収するのが手間であるということであれば,予め会社役員同士でお金を出し合って資金をプールしておき,そのプールした資金から会社役員全員分の特約保険料相当額を支出した上で,事後的に会社役員間で個別に精算するというような方法も考えられる。
第3款 特約保険料の割合
主契約保険料と特約保険料との割合は実務上9対1とされるのが通例であり,ほぼ例外はないと言って差し支えない。
例えば,D&O保険契約全体の保険料が300万円であれば,主契約保険料が270万円で特約保険料が30万円ということになる。
このようになるのは,保険会社がD&O保険の保険料を算出する際は,主契約保険料と特約保険料とを別個に算出して積み上げ計算によって全体の保険料を算出しているのではなく,全体の保険料をまず決めてからそのうちの1割相当額を特約保険料として定めているからである。
9対1という比率に理論的な根拠はなく(※ ほとんど数字遊びに近い説明ではあるという前提の下に,会社役員に対する損害賠償請求の約半数(50%)が株主代表訴訟であり,そのうち約半数(25%)で会社役員が敗訴し,その場合D&O保険の免責に該当する可能性が高いからその他の場合の約半数(12.5%)のケースのみが保険金支払対象になることから,端数を丸めて全体の10%が特約保険料となるという説明がなされることはある。
結局,理論的にはこの程度に根拠薄弱ということである。),また過去の事故についての統計データに基づく数値でもない。わが国よりも先にD&O保険が普及した米国においてもかつて保険料の一部を会社役員が自己負担していた時期があり(※ 現在は会社役員が個人負担をせず会社が全額を負担しても問題ないように立法的に解決されている),その際の自己負担の割合が通例10%とされていたことから,わが国においてもこのような取扱いに倣ったものである。
第4款 特約保険料の役員間の配分
被保険者である会社役員が負担すべき特約保険料の額は保険会社が具体的な金額で提示するが,会社役員は複数存在するのが通常であるから,特約保険料をさらに個々の会社役員間で配分する必要がある。この会社役員間の具体的配分についてまでは保険会社は行わない。
特約保険料を会社役員が個人負担すべきものとされた理由は,これを会社負担とするとD&O保険の適法性に疑義が生じるからという点にある。
よって,この適法性の問題は,特約保険料部分を会社に負担させなければ解決するのであり,個々の会社役員間の分配をどのようにしようとD&O保険の適法性との関係では問題がない。
極端な例としては,特約保険料の全額を社長1人が負担したり,会社でも会社役員でもない第三者が負担したりしても上記D&O保険の適法性の問題には直接の影響はない訳である。
特約保険料の会社役員間の配分を適正に行わなければならない理由はもっぱら税務上の問題からである。
すなわち,保険カバーによる利益を享受する者がその享受する利益の大小に見合った保険料の負担をせず,別の者がこれを負担したとすれば,この負担者から保険カバーによる利益を享受する者に対して利益の移転があったとみなされ,贈与税が賦課される可能性があるという問題が生じることになる。
よって,このような税務上の問題が生じないようにするためには,個々の会社役員がそれぞれ享受する保険カバーによる利益に見合った保険料負担をすれば良いということになる。
とは言え,どの被保険者が保険カバーによる利益をどの程度の享受しているかを正確に知ることは困難である。
そこで,基本的には各被保険者が享受している保険カバーによる利益の大きさを考慮するものであるとしても,あまり厳密に理論的な正しさを追及するのではなく実務的な取扱い上の便宜にもある程度配慮した簡易な方式を採用することも許されるのではないかと考える。
厳密に考えると,D&O保険の被保険者は初年度契約以降に会社役員に就任していた者は,現在の会社役員ではないとしても現在のD&O保険契約においても被保険者とされるから,既に退任した歴代の会社役員からも延々と保険料を徴収し続けるべきということになろうが,これはあまりに煩瑣な取扱いであり現実の運用としてこのような取扱いをしているというケースは聞いたことがない。
そこで,現実の実務がそうであるように,現在のD&O保険契約を締結した時点で既に会社役員ではなくなった者からは当該D&O保険契約の特約保険料相当分を徴収しないするという取扱いを行えば足ると解される。
このように,D&O保険契約を締結する時点での会社役員のみが特約保険料相当分を負担するものとして,それをさらに役員個人間でどのように配分するかについて実務上考えられるものとして,大きく分けて頭割方式,報酬比例方式,その他の方式の3種類の方法がある。
頭割方式はどの会社役員も等しくD&O保険カバーによる利益を享受しているという考え方に基づくものであって,ある程度の合理性が認められる上,単純な頭割計算によって各自の自己負担額が簡明に算出できることから実務上最も広く利用されている保険料分配方式である。
報酬比例方式は,各会社役員が会社から受け取る報酬に比例させて各自の負担額を決定する方式である。この方式は,会社から受領する報酬額に比例してその者の会社役員としての活動量が増加するからそれに呼応してD&O保険カバーによる利益享受量も増加するという考え方に基づくものであって合理性の認められる分配方法であると言えよう。この報酬比例方式は頭割方式に次いで多く利用されている保険料分配方式である。
その他の分配方式としては,代表権の有無,取締役・監査役といった商法上の役職別,又は常務・専務といった各会社が独自に定めた役職別に各会社における各役職が持つ役割の重要性に応じて保険料分担額を定めるという方法などが考えられる。
この役職別の保険料分担額決定方式にも合理性が認められるが,難点としては各役職ごとの役割の重要度合いを判断することに困難が伴うことや,実際の具体的保険料を分配する段階で分配計算が複雑になるおそれがある点が挙げられる。
よって,これらの方法はあまり利用されていない。
結局どのような分配方式を採用したとしても,その分配方法が当該会社の実態に照らして特に不合理と言えるようなものではない限り問題はないものと考えられる。
特に不合理と言えるような例としては,特約保険料の全額を社長1人が負担するという方式などが挙げられるだろう。以下,実務上問題になりそうなケースにつき検討する。
まず,会社役員と会社との関係は委任の関係にあり,委任契約は報酬を要素としていないから,無報酬の会社役員は法的に許されるのであり,実際上も無報酬の会社役員は存在する。
そして,無報酬であっても法的に会社役員である以上地位に応じた法的責任は負担するし,D&O保険の被保険者にも当然に含まれることになる。
しかし,無報酬である者から保険料を徴収するのは実際的ではないことから,無報酬の会社役員からはD&O保険の特約保険料部分を徴収する必要はないものとされている。
次に,保険期間の中途で新たに会社役員に選任された者や,保険期間の中途で会社役員でなくなった者についてどのように取扱うかが問題となる。
典型的な状況として,保険期間の中途において定時株主総会が開催され会社役員の改選が行われた場合が考えられる。
保険期間の中途で会社役員の人数が増減したとしても,保険会社との関係では保険料の追徴・返戻は生じない。よって,最も簡明な取扱いは,これらの会社役員についても一切保険料の追徴・返戻は行わないという取扱いであって,このような取扱いで問題はないものと考える。
もっとも,在任期間に応じて適宜保険料を定めて追徴・返戻し,会社役員間で調整するという取扱いルールを定めこのようなルールに従って処理することも可能であろう。
ただ,特定の会社役員についてのみ恣意的に保険料の追徴・返戻を行うというような取り扱いは不合理であるから許されない。
また,法律上の取締役,監査役,執行役ではない執行役員については法的に見て株主代表訴訟の被告となることは考えられないから,株主代表訴訟に敗訴した場合の損害に対応する株主代表訴訟担保特約条項の保険料であるところの特約保険料を負担する必要はないと考えられる(※ 誰を被告として訴えるかは訴える者の自由であるから,商法上の取締役,監査役,執行役でなくても執行役員は株主代表訴訟の被告たりうるという独自の法的見解に基づいて執行役員に対して株主代表訴訟が提起される可能性は理屈上は否定できず,提起されれば何らかの防御活動は余儀なくされるだろうが,実際はこのような事態はほぼありえないと言って差し支えないであろう)。
なお,この特約保険料の役員間配分の取り扱いについては,ある程度国税局の見解が明らかにされており,この見解については後に紹介する(「第8節 D&O保険の保険料についての国税庁見解」)。
第7節 記名子会社がある場合の保険料
D&O保険の被保険者に記名法人の会社役員だけでなく,記名子会社も指定してその会社役員も加えた場合は,保険料見積りの際に記名法人及び個々の記名子会社ごとの内訳保険料が保険会社より示されることになっていることから,それぞれの会社が内訳として示された金額を負担すれば足りる。
また,個々の記名子会社の役員が自己負担すべき特約保険料の金額も保険会社より示されるであろうから,これに従って記名子会社の役員も記名法人の役員と同様に自己負担すれば足る。
ただし,記名子会社については記名法人がその株式の全てを保有している場合(完全子会社である場合)など特約保険料を負担しなくても良いとされるケースがある。
例えば,記名子会社が記名法人の完全子会社である場合,記名法人を含む3社の共同出資による会社であって,その持株比率が記名法人60%,残りの2社が20%ずつである場合,記名子会社の株主が全て記名法人または記名法人の子会社である場合などは,いずれもD&O保険で担保されるような株主代表訴訟が発生しえないケースである。
なぜなら,通常5%で設定される大株主割合の比率を超える持株割合を有する者からの損害賠償請求は約款上免責とされるし(普通約款6条10号),記名法人又はその子会社からの損害賠償請求も約款上免責とされるからである(同条9号)(※ 理論的な可能性としては,保険期間の中途の株式移転により少数持株の純粋に第三者である株主が生じ,この株主が代表訴訟を提起することが考えられるが,その可能性は実務上無視しうるほど小さいと考えられる)。
よって,このような状態にある記名子会社の会社役員については株主代表訴訟担保特約条項に基づいて保険金が支払われる可能性がないため,特約保険料は負担しなくても良いものとされる。
従って,記名子会社についてはその役員が特約保険料を自己負担しなければならない会社と自己負担しなくてもよい会社との2種類がありうることになる。
そして,特約保険料を会社役員が自己負担しなければならない会社について,その特約保険料は通常記名子会社分の保険料とされる金額の10%である。具体的な保険料配分例を次に示す。
| 主契約保険料 | 特約保険料 | 合計 |
| 記名法人 | 3,420,000円 | 380,000円 | 3,800,000円 |
| 記名子会社A | 315,000円 | 35,000円 | 350,000円 |
| 記名子会社B | 200,000円 | 0円 | 200,000円 |
| 記名子会社C | 150,000円 | 0円 | 150,000円 |
| 合計保険料 | 4,085,000円 | 415,000円 | 4,500,000円 |
この例では,記名子会社B及び記名子会社Cが記名法人の完全子会社である等の理由により特約保険料の負担がないものとされている。
よって,この2社の会社役員は保険料を自己負担する必要がない。そして,記名法人の会社役員は全員で総額38万円を負担すべきことになり,記名子会社Aの会社役員は全員で総額3万5000円を負担すべきことになる。
この例で分かるとおり,記名子会社の中に記名法人の完全子会社等が含まれている場合は保険料全体を見た場合に主契約保険料と特約保険料の比率は9対1にはならないことになる。
しかし,特約保険料の負担をすべきものとされる会社ごとに見ると,その主契約保険料と特約保険料の比率は9対1となっている。
なお,記名子会社は日本法人であるとは限らないから,例えば記名子会社が米国に所在し,その州法によればD&O保険の保険料を会社が全額負担しても違法とはされていないということであれば,保険会社が特約保険料を提示したとしてもその保険料も含めて全額を当該記名子会社が負担しても差し支えない。
第8節 D&O保険の保険料についての国税庁見解
D&O保険の保険料に関する税務上の取扱いについては,現行D&O保険が発売された直後の平成6年1月19日付けで社団法人日本損害保険協会より国税庁に対して書面による照会がなされ,これに対して平成6年1月20日付で国税庁から社団法人日本損害保険協会に対して回答がなされ,同日付で国税庁長官より国税局長及び沖縄国税事務所長宛に上記回答を行った旨の通達が出状され,全国的にこの回答に基づく税務上の取り扱いが現在定着しているものと考えられる。
それによれば,具体的取扱いは次の通りである。
まず,主契約保険料に関しては,被保険者を会社役員個人とするものであるが,この保険料を会社が負担したとしても役員に対する経済的利益の供与はないものとして給与課税はなされない。
次に特約保険料に関しては,前述の通りこれは会社役員個人が負担すべきものとされているが,仮にこの保険料部分を会社が負担した場合は役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税がなされる(※ ここでは税務上の取扱いだけが問題となっていることからこのような回答になっているが,課税以外の法的問題として,そもそも商法上の観点からD&O保険の適法性について疑義が生じるという重大問題が生じるため会社負担は避けるべきであることは言うまでもない)。
また,特約保険料の役員間の配分については,合理的な基準により配分を行った場合には,課税上問題ないとした上で,具体的な合理的基準による配分方法として頭割方式,報酬比例方式及び被保険者の商法上の役割区分に応じた額をもって配分する方法という3つの方法が例示されている。
また,記名子会社を指定し,子会社の会社役員も被保険者としている場合は,記名法人,記名子会社ごとの保険料の内訳を保険会社が示すことになっているので,契約者においては,これに従って処理すれば課税上の問題は生じないものとされる。
以下,平成6年1月19日付けで社団法人日本損害保険協会より国税庁に対して出状された照会書面,これに対して平成6年1月20日付で国税庁から社団法人日本損害保険協会に対して出状された回答書面及び同日付で国税庁長官より国税局長及び沖縄国税事務所長宛に出状された通達の内容を引用する(※ 平成17年5月,国税庁のホームページより)。
「
課法8−2
課所4−2
平成6年1月20日
国税局長
殿
沖縄国税事務所長
国税庁長官
会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて
標題のことについて,社団法人日本損害保険協会から別紙2のとおり照会があり,これに対し当庁課税部長名をもって別紙1のとおり回答したから了知されたい。
別紙1
課法8−1
課所4−1
平成6年1月20日
社団法人 日本損害保険協会
常務理事 ○ ○ ○ ○ 殿
国税庁 課税部長
○ ○ ○ ○
会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて
(平成6年1月19日付協火新93−46号照会に対する回答)
標題のことについては,貴見のとおり解して差し支えありません。
なお,照会事項2に例示された「保険料負担の配分方法」は,経営活動等の状況からみて,その法人にとっての合理性があり,かつ,課税上の弊害も生じない場合に限り認められるものであることを,念のため申し添えます。
別紙2
協火新93−46号
平成6年1月19日
国税庁 課税部長
○ ○ ○ ○ 殿
社団法人 日本損害保険協会
常務理事 ○ ○ ○ ○
会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(照会)
拝啓 時下ますますご隆昌のこととお慶び申し上げます。
弊業界につきましては,毎々格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて,損害保険各社は,3年前より大蔵省のご認可をいただき会社役員賠償責任保険を販売してまいりました。開発の当時は主に海外において事業活動を行っている企業の役員が,海外で訴訟に巻き込まれる危険を想定しておりました。特に,役員訴訟がわが国とは比較にならない程多数提起されている米国におけるリスクを考え,英文にて約款を作成いたしました。その結果,わが国においては株主代表訴訟の提起が極めて稀であったことと相まって,本保険に対する関心はあまり高くなく,事実契約数も少数に留まっておりました。
しかしながら,平成5年の商法改正を機に,特に,株主代表訴訟で役員敗訴のケースに対するリスクを担保する保険料を会社が負担することは,商法上問題ではないかとの指摘が出てまいりました。
そこで,損害保険各社としては,かかる商法上の問題に配慮し,契約者の自由な選択に応え得る商品を提供すべく,このたび新たな和文約款及び英文約款にもとづく会社役員賠償責任保険の認可を取得いたしました。
この新約款では,株主代表訴訟で被保険者が損害賠償責任を負う場合は普通保険約款では免責とし,このリスクの担保を契約者が希望する場合は,別途保険料を領収して特約条項を付すことと致しました。これにより,契約者は,普通保険約款で担保するリスクに相当する保険料と特約保険料とを明確に区分して保険会社に支払うことも可能となるなど,商法問題に配慮した契約を行うことが可能となりました。
つきましては,この新約款による会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて,下記の通り取り扱われるものと解して差し支えないかどうかご照会申し上げます。
敬具
記
1 支払保険料の税務処理
(1) 基本契約(普通保険約款部分)の保険料
基本契約に係る保険料を会社が負担した場合の当該保険料については,役員個人に対する給与課税を行う必要はないものとする。
(理由)
[1] 第三者から役員に対し損害賠償請求がなされ役員が損害賠償責任を負担する場合の危険を担保する部分の保険料は,所得税基本通達36−33及び法人税基本通達9−7−16の趣旨に照らし,この部分の保険料を会社が負担した場合であっても,役員に対する経済的利益の供与はないものとして給与課税を行う必要はない。
[2] 役員勝訴の場合の争訟費用を担保する部分の保険料は,役員が適正な業務執行を行い損害賠償責任が生じない場合にその争訟費用を担保する保険料であり,この部分の保険料を会社が負担した場合であっても,役員に対する経済的利益の供与はないものとして給与課税を行う必要はない。
(2) 株主代表訴訟担保特約の保険料(特約保険料)
この特約保険料について,契約者は商法上の問題を配慮し役員個人負担又は役員報酬から天引きとすることになると考えられるが,これを会社負担とした場合には,役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税を要する。
2 保険料負担の配分方法
(1) 特約保険料の役員間の配分について
取締役の報酬の総額及び監査役の報酬の総額は定款又は株主総会の決議により定めることになっているが,通常その配分は取締役会及び監査役の協議に委ねられている。したがって,特約保険料の役員間の配分もまた取締役会及び監査役の協議において合理的な配分方法を定め得るものと考えるが,実務上は,次のいずれかの方法など合理的な基準により配分を行った場合には,課税上許容される。
[1] 役員の人数で均等に分担する方法
役員は会社に対し連帯して責任を負うものとされていることを考慮し,役員全員において均等に負担する方法(無報酬あるいはごくわずかな役員報酬しか得ていない取締役にまで均等に負担させることが適当でないと認められる場合には,その者への配分割合を縮小もしくは配分しない方法を含む。)
[2] 役員報酬に比例して分担する方法
役員と会社との関係は有償の委任及び準委任と解されており,報酬に差がある以上危険負担も同程度の差があると考えられることから,報酬額に比例して保険料を負担する方法
[3] 商法上の区分別に分担する方法
商法に定められた代表取締役,取締役,監査役ごとにそれぞれの役割に応じた額を定める方法
(2) 保険料の会社間の配分方法について
子会社を含めた契約を契約者が希望する場合は,保険料は一括して算定されることになるが,契約に当たっては,保険会社からそれぞれの子会社ごとの保険料を内訳として示すこととしていることから,契約者においては,これに従って各社ごとの配分額を決定する。
以上
」
第9節 保険料の分割払い
普通約款4条3項において保険料即収の原則が明示されていることから,D&O保険の保険料は保険契約時の一括払いが原則である。
しかし,D&O保険で保険料を毎月の12回払いとするような分割払いとすることも不可能ではなく,普通約款4条3項の保険料即収の原則を修正する特約条項を附帯して保険料を分割払いとすることも可能である。
よって,保険契約者の希望に基づいて保険料の分割払いを認めるか否かは各保険会社の判断に委ねられることになるが,希望があれば通常は分割払いに応じる取扱いが一般的である。
保険料を分割払いとする場合の分割回数,支払間隔,それぞれの支払金額,分割払いとすることによる割増保険料等の具体的分割方法についても保険会社ごとの定めによることになるが,一般的には最多分割で毎月払いの12分割までで割増保険料は不要とされるか最大でも一括払い保険料の1割程度であると考えられる。
ただし,一般消費者を対象とする保険商品であれば,年間保険料全額を一括払いするのは負担が大きいので少額に分割して支払う方が好まれることも多いという事情があることから分割払い方式も良く利用されているが,D&O保険においてはあまりこのような事情はなく,保険料の分割払いにはかえって事務処理上煩瑣な面もあることから保険料が分割払い方式とされている契約はさほど多くない。
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