つるさき法律事務所
遺言・相続・損害保険等

神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

ホーム

事務所案内

遺言・相続

債務整理

損害保険
会社役員賠償責任保険(D&O保険)
前章へ戻る
第6章 特約条項
次章へ進む

リンク


Copyright (C) 2005 Tsurusaki Motoyuki All Rights Reserved

www.tsuruhou.com
第6章 特約条項
第1節 概観

特約条項とは,普通保険約款とは別に必要に応じて追加的に附帯される契約条款をいう。
D&O保険では,定型の特約条項として株主代表訴訟担保特約条項及び会社補償担保特約条項が用意されている。この2つの特約条項はD&O保険が開発された時に同時に開発された特約条項であり,すべての保険会社が同じ特約条項を使用している。
この2つの特約条項の他にも,D&O保険では各保険会社の判断に基づき必要に応じて特約条項を作成した上で個別のD&O保険契約に任意に附帯してよいものとされており,実際にも各保険会社はそれぞれ工夫を凝らした特約条項を作成し状況に応じて使い分けている。
保険会社が販売する保険商品と言えば,保険業法による法的規制や金融庁(かつては大蔵省)による行政的規制により事前に認可を受けた定型的な約款しか用いることができないというイメージを持たれることがあるが,このようなイメージがあてはまるのは自動車保険や住宅対象の火災保険など一般消費者向けに大量販売される保険商品であり,現在企業向けに販売される保険商品の多くは規制緩和の影響を受け保険会社が自由に判断できる広い裁量幅を具備するものが多い。
D&O保険もそのような企業向け保険商品の1つに位置づけられ,各保険会社は特約条項を任意に作成し個々の契約に附帯することができるという取扱いになっている。
かかる取扱いをすることについて金融庁への認可申請や届出等の行政的手続は不要であって,各保険会社独自の判断で実施することができる。なお,このような特約条項の取扱いを特約自由と呼ぶ。

第2節 株主代表訴訟担保特約条項

株主代表訴訟担保特約条項は,第1条(当会社のてん補責任)から第3条(普通約款との関係)までから成る特約条項であって,普通約款7条に規定される免責条項の効力を否定し,被保険者が会社に対して法律上の損害賠償責任を負担する場合に被る損害をてん補する旨を定める特約条項であり,D&O保険の全契約にこの特約条項が附帯される。
全契約に附帯するのであれば,普通約款の中に盛り込んでしまえばよいはずであるが,あえて特約条項という形態で規定している理由については,普通約款7条についての説明の部分で述べたが,かいつまんで説明すると,この特約条項に基づく保険カバーに対応する保険料を会社が負担することは違法ではないかという疑義があったため,この部分の保険料を被保険者たる会社役員が個人負担することを前提に,その余の部分の保険料から切り離して保険料提示することを可能とするため,この部分の保険カバーを特約条項の形態で独立させたというものである。

第1款 免責条項該当部分の復活担保

株主代表訴訟担保特約条項第1条は次の通り定めている。

(当会社のてん補責任)
第1条 当会社は,会社役員賠償責任保険普通保険約款(以下「普通約款」といいます。)第7条(てん補しない損害―その3)の規定にかかわらず,被保険者が会社に対して法律上の損害賠償責任を負担する場合に被る損害を,当会社所定の保険料の支払いを条件にてん補します。

この規定は,普通約款7条1項の「当会社は,被保険者に対して株主代表訴訟等による損害賠償請求がなされ,その結果,被保険者が会社に対して法律上の損害賠償責任を負担する場合に被る損害をてん補しません」という文言と表裏一体となっており,株主代表訴訟担保特約条項が普通約款7条1項による免責条項該当部分について復活担保する旨定めたものである。
他の部分から切り離されたこの特約条項部分の保険料を被保険者たる会社役員が負担することを念頭に置いているため,「当会社所定の保険料の支払いを条件に」という文言が挿入されている。
この特約条項が発動されるのは,被保険者が会社に対して法律上の損害賠償責任を負担する場合に限られるから,たとえ被保険者が株主代表訴訟を受けた場合であっても結果的に勝訴して会社に対して損害賠償責任を負担せずに済んだ場合の損害(争訟費用)はこの特約条項の支払対象外である(普通約款に基づいて支払われる)。

第2款 普通約款と共有のてん補限度額

株主代表訴訟担保特約条項第2条は次の通り定めている。

(てん補責任限度額)
第2条 当会社がこの保険契約でてん補する金額は,普通約款,この特約条項およびその他の特約条項でてん補する金額の合計で保険証券記載の総てん補限度額を限度とします。

D&O保険のてん補限度額は当該保険契約に基づいて支払われる保険金の総額の限度として定められるが,株主代表訴訟担保特約条項に基づいて支払われる保険金もこのてん補限度額とは別個に支払われるのではなく,普通約款その他の条項に基づいて支払われる保険金と合算してこのてん補限度額の枠内でのみ支払われることになる。

第3款 普通約款との関係

株主代表訴訟担保特約条項第3条は次の通り定めている。

(普通約款との関係)
第3条 この特約条項に規定しない事項については,この特約条項に反しない限り,普通約款の規定を適用します。

株主代表訴訟担保特約条項は,普通約款7条の免責該当部分を復活担保するという以上の独自の意義を有するものではないから,普通約款で規定されている7条以外の免責条項その他の条項は,本条が規定する通り株主代表訴訟担保特約条項に対しても適用されることになる。

第3節 会社補償担保特約条項

会社補償担保特約条項は,第1条(当会社のてん補責任)から第4条(普通約款との関係)までから成る特約条項であって,会社役員が職務遂行に起因して損害賠償請求を受けたことによって被る損害を会社が契約,定款等に基づいて補償することによって会社が被る損害をてん補する旨を定める特約条項である。
D&O保険がこのような会社の損害をてん補する取扱いを用意している理由及びこの取扱いが特約条項によって実現されている理由については「第1章 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の概要 第3節 D&O保険の沿革 第6款 改定後のD&O保険の対応 1 和文約款」において既に述べた。
会社が会社役員に対して上記のような補償を行うことを会社補償と言うが,わが国において会社がこのような会社補償を実施することは違法であると解する見解が圧倒的多数である。
よって,わが国の会社の役員のみを被保険者とするD&O保険契約においては会社補償担保特約条項は無用である。
この特約条項が意味を持つのは会社補償を実施することが法的に許される国・法域に所在する会社を記名子会社として指定する場合のみである。
このような場合であっても,この特約条項が強制的に附帯されるものではなく会社補償担保特約条項を附帯するか否かは一応選択の余地があるが,会社役員の損害を保険で直接てん補するのか,それとも会社役員の損害を補償した会社の損害を保険でてん補するのかという点にリスク上の相違はほとんどなく実質的には同じリスクを担保するのであるから,会社補償が適法である可能性のある記名子会社が存在する場合はこの特約条項を附帯することが一般的である。

第1款 会社補償担保

会社補償担保特約条項第1条は次の通り定めている。

(当会社のてん補責任)
第1条 当会社は,会社役員賠償責任保険普通保険約款(以下「普通約款」といいます。)第1条(当会社のてん補責任)の規定のほか,役員が会社の役員としての業務につき行った行為(不作為を含みます。)に起因して保険期間中に損害賠償請求がなされた場合において,会社が,法律,契約または定款等に基づいて適法に,普通約款およびその他の特約条項によっててん補すべき損害の補償を役員に対して行ったことによって生じる損失(以下「損失」といいます。)をてん補します。

「普通約款およびその他の特約条項によっててん補すべき損害」という文言から分かる通り,この特約条項は会社補償がなされなければD&O保険の普通約款等によって被保険者たる会社役員に対して支払われたであろう保険金に相当する損害に対してのみ保険金が支払われることを規定している。
会社が補償したことによる会社の損失に対して保険金が支払われるのであるから,理論的にはこの特約条項における被保険者は会社ということになるが,実質的には損害を被った会社役員に対して会社を通じて保険金を支払うという構造になっている。
会社が補償したことによる会社の不利益のことを本条は「損失」と定義しているが,これは既に「損害」という用語が会社役員の不利益を指すものとして普通約款1条で定義されて用いられていることから用語を変えたものであると考えられる。

第2款 読替規定

会社補償担保特約条項第2条は次の通り定めている。

(読み替え規定)
第2条 この特約条項の適用にあたっては,次の通り普通約款を読み替えて適用します。
(1) 普通約款第22条(争訟費用,法律上の損害賠償責任)第1項,第24条(保険金の請求),第25条(保険金の支払い),第26条(評価人および裁定人)および第27条(代位)の規定中「被保険者」とあるのを「会社」
(2) 第9条(てん補責任限度額),第10条(他の保険契約との関係),第24条(保険金の請求)および第27条(代位)の規定中「損害」とあるのを「損失」

前述の通り会社補償担保特約条項についての被保険者が理論的には会社であること及び会社の不利益を指すものとして「損害」という用語を避けて「損失」という用語を使用したことに伴い,普通約款を適用する際に必要となる読み替えを本条は定めたものである。

第3款 普通約款と共有のてん補限度額

会社補償担保特約条項第3条は次の通り定めている。

(てん補責任限度額)
第3条 当会社がこの保険契約でてん補する金額は,普通約款,この特約条項およびその他の特約条項でてん補する金額の合計で保険証券記載の総てん補限度額を限度とします。

本条の文言は,株主代表訴訟担保特約条項第2条と全く同一であり,その意図するところも全く同じである。
すなわち,D&O保険のてん補限度額は当該保険契約に基づいて支払われる保険金の総額の限度として定められるが,会社補償担保特約条項に基づいて支払われる保険金もこのてん補限度額とは別個に支払われるのではなく,普通約款その他の条項に基づいて支払われる保険金と合算してこのてん補限度額の枠内でのみ支払われることになる。
ただし,免責金額については普通約款や株主代表訴訟担保特約条項に基づいて支払われる保険金について適用される免責金額とは別個に,この会社補償担保特約条項に基づく支払保険金についてのみ適用される免責金額が設定されることが一般的であり,その免責金額の水準は500万円,1000万円といった比較的高い水準であることが多い。

第4款 普通約款との関係

会社補償担保特約条項第4条は次の通り定めている。

(普通約款との関係)
第4条 この特約条項に規定しない事項については,この特約条項に反しない限り,普通約款の規定を適用します。

本条はその文言も意図するところも株主代表訴訟担保特約条項第3条と全く同じであり,普通約款で規定されている条項は本特約条項に対しても適用されることになる。

第4節 その他の特約条項

D&O保険においては,特約自由という取扱いによって,定型約款である株主代表訴訟担保特約条項及び会社補償担保特約条項の他,各保険会社が独自に作成した特約条項を附帯することができることは前述した。 独自作成であるからその内容は保険会社ごとにまちまちであり,各保険契約ごとに当該契約にのみ適合するいわばオーダーメイドの特約条項を作成・附帯することもできるから,特約自由に基づいて作成される特約条項は千差万別であって,その全てを説明することは不可能である。
そこで,様々な特約条項をある程度類型化し,実務においてしばしば用いられている特約条項についてその大まかな内容を説明する。
もちろん,その詳細かつ正確な内容は実際に使用される特約条項の具体的文言に即して検討されるべきである。

第1款 保険会社の一般的引受スタンスに由来する免責条項

保険会社がD&O保険を引き受けるにあたっての一般的な引受スタンスに基づき,個々の契約ごとのリスク実態とは無関係におよそ一般的に保険カバーを提供したくないと考えるリスクを免責とする趣旨で特約条項を附帯していることがある。
これは特約条項という形態をとるが,実質的には当該保険会社における普通保険約款としての意味を持つものである。これに該当するものとして,例えば次のような特約条項がある。

1 保険手配を失敗したことに起因する損害を免責とする特約条項

会社は事業活動を営むにあたり偶然の事故による収支の大変動を抑制するために保険を利用することがある。
例えば,工場建物に火災保険を手配したり自社保有車両に自動車保険を手配したりする場合などが典型的である。
会社役員がこのような保険手配を怠り又は不適切な保険手配をしたために偶然の事故によって会社が大きく損害を被った場合,保険手配を失敗した会社役員に対して株主代表訴訟によって損害賠償請求がなされるおそれがある。
このような損害賠償請求をD&O保険でカバーするということになると,結局のところD&O保険が火災保険や自動車保険等の別の保険の代用として機能するということになり,これを見越して保険契約者の側で適切な保険手配を軽視するというモラルハザードが発生しかねない。
そこで,このようなモラルハザードを防止する観点から,適切な保険手配がなされなかったことに起因する損害はD&O保険の保険金支払対象外とする特約条項が附帯されることがある。

2 キャプティブの運営を失敗したことに起因する損害を免責とする特約条項

キャプティブとは自家保険会社を意味する。
会社が保険を手配するにあたり,完全に外部の保険会社から保険を調達するのではなく,自社の子会社等として設立した保険会社から保険を調達することにより,保険手配に要するコストをできる限り低く抑えようとする手法があり,そのために設立される子会社等の形態による保険会社を自家保険会社(captive)と呼んでいる(※ 実際の仕組みは次の通りもう少し複雑である。
国内で保険会社を設立して運営するのは容易でないことから,法人に対する税率も安く規制も緩やかな海外にキャプティブとなる再保険会社を設立し,自社の保険を国内の一般の元受保険会社にいったん引き受けてもらった上で,その引受分の全部又は一部を再保険の形で海外キャプティブに引き受けさせるという仕組が一般的なキャプティブの形態である)。 このキャプティブの運営を失敗したことによる損害賠償請求をD&O保険でカバーするとなると,前述の保険手配を失敗したことに起因する損害賠償請求をカバーする場合と同様の弊害が生じることから,キャプティブの運営を失敗したことに起因する損害はD&O保険の保険金支払対象外とする特約条項が附帯されることがある。

3 コンピュータの日付誤認識に起因する損害を免責とする特約条項

かつて西暦2000年を迎える際に,コンピュータの日付処理が正常に行われずコンピュータが誤作動することによって社会に大混乱が生じ様々な事故による損害が生じるのではないかという問題がいわゆる2000年問題(※ year2kiroの頭文字を取ってY2K問題とも呼ばれる)として社会的に問題となった。
結果的に西暦2000年を迎えた時はさしたる混乱も生じなかったのであるが,この問題が生じたことを契機として保険会社が保険を引き受けるにあたりコンピュータの日付誤認識に起因する損害を免責とする扱いが広く見受けられるようになり,D&O保険でもこの種の損害を保険金支払対象外とする特約条項が附帯されることがある。

4 テロ・戦争に起因する損害を免責とする特約条項

2001年9月11日,ニューヨークワールドトレードセンターへの航空機突入という空前の大規模テロが発生したが,この事件はテロによる大規模損害の発生という可能性を顕在化して見せた結果,全世界の保険会社の間でテロ行為に起因する損害を免責とする扱いが広く見受けられるようになった。
そこで,D&O保険でもテロに起因する損害を保険金支払対象外とする特約条項が附帯されることがある。 また,多くの保険商品は甚大な損害を生じさせる可能性のある戦争リスクを普通約款において免責とする取扱いをしているが,D&O保険の普通約款には戦争リスクを免責とする条項が含まれないため(※ 戦争に起因する損害について会社役員が責任追及される事態はあまり生じないと考えられたためではないかと思われる),戦争に起因する損害についても保険金支払対象外とする特約条項が付帯されることがある。

5 米国で多発する形態の事故を免責とする特約条項

米国が訴訟社会であることはつとに知られており,会社役員に対する損害賠償請求訴訟も例外ではない。このような米国社会の環境を受け,米国において高頻度で発生するおそれのある事故形態による損害をD&O保険の保険金支払対象外とする特約条項が附帯されることがある。
免責とされる事故形態としては,米国従業員退職基金補償法,米国証券法,米国証券取引所法,米国組織犯罪取締法等の法令違反に起因する損害賠償請求などがある。

第2款 原則的ではない保険条件を設定するための特約条項

D&O保険の普通約款が想定している原則的な保険条件とは異なる保険条件でD&O保険を設計するために特約条項が附帯されることがある。
これに該当するものとして,例えば次のような特約条項がある。

1 共同保険による引受を規定する特約条項

共同保険とは,1つの保険契約について複数の保険会社が引受保険会社となり,それぞれの引受割合(シェア)に応じて保険料を受領しかつ保険金支払責任を負うという保険契約形態をいう。
各引受保険会社ごとの引受割合はその合計額が100%となるように契約締結時に定められる。
事務的には複数の引受保険会社のうちの1社(※ 通常は引受割合が最も高い保険会社のうちの1社)が幹事会社となり,その幹事会社が全引受保険会社を代表して保険契約の締結手続,保険証券発行手続,保険金請求手続等の事務手続を行う。
そこで,D&O保険を共同保険とする場合は,以上のような保険料収受,保険金支払,事務手続等を定める特約条項を付帯する場合がある。
共同保険方式を用いれば,個々の引受保険会社の保険引受能力(capacity)を集積することによって大きな保険金額・てん補限度額を実現することが可能になる。
例えば,てん補限度額50億円のD&O保険契約を単独で引き受けることができる保険会社を探すことは困難であるが,保険会社5社が20%ずつの引受割合となる共同保険方式とすれば各社の責任額は10億円ずつということになるから,これを引き受けることができる保険会社が出現する可能性が高まる。

2 証券適用地域を全世界担保以外とすることを規定する特約条項

D&O保険の普通約款は特に担保地域を限定しておらず,懲罰的損害賠償金(普通約款3条5号)等わが国には存在しない制度を前提とする用語を使用するなどむしろ日本国外で発生する事故に対しても保険金を支払うことを前提とした約款になっている。
そこで,D&O保険の保険設計にあたり,日本国内のみの保険事故を担保する等のように,担保地域を全世界以外の保険条件とする場合に,具体的にどのような要件を備えた事故のみを担保するかといった事項を規定する特約条項を附帯する場合がある。

3 先行行為を担保することを規定する特約条項

D&O保険では,初年度契約の始期日よりも前に行われた会社役員の行為に起因する損害賠償請求は原則として免責とされている。
そこで,例外的に先行行為(prior act)すなわち初年度契約の始期日よりも前に行われた会社役員の行為に起因する損害賠償請求を担保する保険設計とする場合に,いかなる条件の下で先行行為を保険金支払の対象とするかを規定する特約条項を附帯する場合がある。

4 保険料の分割払いを規定する特約条項

D&O保険では,保険料は保険契約締結時の一括全額払いが原則である。
そこで,例外的に保険料の分割払いを認める保険設計とする場合に,いかなる条件の下で分割払いを認めるかを規定する特約条項を附帯する場合がある。

5 保険期間終了後の損害賠償請求を担保する旨を規定する特約条項

D&O保険は損害賠償請求ベースで設計され,原則として保険期間中に発生した損害賠償請求のみが保険金支払の対象となり,保険会社側からの更新拒絶その他の理由により保険期間が終了した後に発生した損害賠償請求は保険金支払対象外である。
そこで,例外的に保険期間終了後の損害賠償請求を保険金支払対象とする保険設計とする場合に,いかなる条件の下で保険金支払対象とするかを規定する特約条項を附帯する場合がある。

第3款 保険契約ごとの個別的事情に応じた保険条件を設定するための特約条項

保険会社は,個々のD&O保険契約締結にあたって当該保険契約についてのリスクを評価した上で保険会社として引受可能な保険条件を設定することになるが(※ このような判断行為をアンダーライティングと呼ぶ。),その際に当該契約ごとの個別的事情に応じた保険条件を定めるために特約条項が附帯されることがある。これに該当するものとして,例えば次のような特約条項がある。

1 特定の者からの損害賠償請求を免責とする旨を規定する特約条項

例えば,現在は会社役員の地位から引退し株主の地位にとどまっている創業者一族と現経営陣との関係が不安定で対立が予想される場合に,創業者一族からの損害賠償請求については免責とするような保険設計がなされることがあり,このように特定の者からの損害賠償請求を免責とする場合にその旨を規定する特約条項が附帯される場合がある。

2 倒産に起因する損害賠償請求を免責とする旨を規定する特約条項

会社の規模が小規模であったり財務内容が良好でないなどの理由で将来的に安定的に会社が存続しえない事態が生じることも予想できる場合に,会社が倒産したことに起因する損害賠償請求については免責とするような保険設計がなされることがあり,その旨を規定する特約条項が附帯される場合がある。

3 特定の事案に起因する損害賠償請求を免責とする旨を規定する特約条項

例えば,現在会社が独占禁止法違反の疑いをかけられて捜査の対象になっている場合など,会社が将来の争訟の火種となりそうな事案を抱えている場合がある。このような場合に,紛争の原因になりそうな特定の事案に起因する損害賠償請求を免責とする旨規定する特約条項が附帯される場合がある。

第4款 D&O保険に自社独自の特長を盛り込むための特約条項

各保険会社はD&O保険を販売するにあたり他社にはない自社独自の特長をD&O保険商品に盛り込んで,これをセールスポイントとする場合がある。
例えば,普通約款では免責とされている事由について一定要件の下で免責条項を適用しないものとしたり,普通約款では保険金支払対象となっていない費用に対して一定要件の下で保険金を支払うものとしたりすることなどが考えられる。
そこで,このような特長を具現化するためにその旨を規定する特約条項が附帯される場合がある。