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神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第5章 担保地域・管轄裁判所・準拠法
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第5章 担保地域・管轄裁判所・準拠法
第1節 原則として全世界担保

D&O保険は,株式を公開している大規模企業を主要な契約者として想定しており,このような大企業は世界規模で活動していることが多いことから,D&O保険の担保地域(※ 保険適用地域ないし証券適用地域などとも呼ばれる)は全世界とするのが基本形である。
すなわち,被保険者たる会社役員の行為が世界中のどこでなされた場合であっても,また会社役員に対する損害賠償請求が世界中のどこでなされようとも保険金支払の対象になるということである。
このことは普通約款の明示するところではないが,普通約款中に「懲罰的損害賠償金」「倍額賠償金」といったわが国の法制度の下では存在しない用語が使用されていたり(普通約款3条5号),「保険証券発行地の標準時」(普通約款4条2項)という文言が用いられていたりすることから,D&O保険は全世界担保を暗黙の前提としているものと言える。

第2節 日本国内のみ担保の保険条件

D&O保険の契約者の中には,全世界展開はしておらず,もっぱら日本国内でのみ活動している会社もあり,そのような会社の中には日本国内における事故のみ保険の対象とすれば足ると考える会社もありうる。
そこで,担保地域を日本国内のみに限定してD&O保険を設計することも可能とされている。この場合,担保地域を日本国内のみに限定する旨の特約条項を附帯するのが一般的な取扱いである。
保険契約者側にとって,担保地域を日本国内のみに限定するメリットは保険料が安くなるという点のみである。ただ,もともと日本国内のみでしか活動していない会社は,海外でのリスクはほとんど抱えていないため,保険条件を全世界担保とする場合と日本国内のみ担保とする場合とでさほど保険料が変わるものではない。
よって,双方の保険料を比較した上で保険料がさほど変わらないというのであれば,万一の事故に備えるという保険の意味からも,保険事故発生時にそれが日本国内での事故であるのか海外での事故であるのかの判別を巡って保険会社との間でトラブルを抱えずに済むという意味からも全世界担保の保険条件としておくことが好ましい。
日本国内のみ担保の保険条件の下で,具体的にどのような事故をもって日本国内の事故と定義して保険金支払の対象とするかについては様々な定め方がありうる。
従って,保険契約者としてはその定義の内容を十分に検討して,自らが希望する保険カバーが真にその定義によって得られるのかどうかを慎重に検討する必要がある。
例えば,日本国内のみ担保の保険条件として,損害賠償請求の原因となる会社役員の行為が行われた場所及び損害賠償請求がなされた場所のいずれもが日本国内である場合が日本国内の事故として取り扱われ,この場合にのみ保険金が支払われるという定め方がある。
このような定め方の下において,会社役員の何らかの行為がなされ,その行為が原因で会社役員に対して損害賠償請求がなされた場合に,それら行為の場所や損害賠償請求がなされた場所を決定することは必ずしも容易ではない。
社長が休暇中に海外旅行に行き,その途中で仕事を思い出して海外から電子メールによって日本国内の会社の従業員に指示を出した場合この社長の行為がなされた場所は海外ということになるのか,公海上を航海する船の中からの指示であった場合はどうか,また,日本の会社と取引した外国人が本国に帰国した後で,日本に住む当該会社の役員に対して損害賠償を求める手紙を出してこの役員にもとに到達した場合この損害賠償請求がなされた場所は海外ということになるのか,といった具体的事例を想定してみれば,役員の行為や損害賠償請求の場所を決定することが必ずしも容易でないことが分かるであろう。
このような判別困難なケースがありうることを考えると,やはり前述の通り担保地域は全世界としておくことが望まれる。
また,ほとんど日本国内のみでしか活動していない会社であれば,担保地域を全世界にした場合の保険料と担保地域を日本国内のみにした場合の保険料との差はそれほど大きくないはずであるから,そのような意味からも万一の事態を想定して担保地域を全世界としておくことは有力な選択肢であると考えられる。
なお,全世界担保ではなく日本国内のみ担保でもないという担保地域を設定することも一応可能であるが,実務上そのようなニーズはほとんどないようである。

第3節 管轄裁判所

普通約款28条はD&O保険契約に関する訴訟の際の管轄裁判所について次の通り定める。

(管轄裁判所)
第28条 この保険契約に関する訴訟については,日本国の裁判所を合意による管轄裁判所とします。

保険契約上の権利義務を巡って,保険契約者・被保険者と保険会社との間で訴訟が起きることが考えられる。
訴訟の関係当事者が日本人だけであれば外国の裁判所に訴訟が提起されることはまず考えられないが,D&O保険は全世界担保を原則としており海外子会社の役員を被保険者とすることもあるから,海外に在住する会社役員である被保険者と保険会社との間で訴訟が起きることも考えられる。
本条は,そのような場合の管轄裁判所を日本国の裁判所と定めるものである。
本条が適用されるのは,D&O保険上の権利義務を巡る訴訟についてのみであるから,保険事故としての訴訟すなわち被保険者が被害者から損害賠償請求を受ける訴訟については本条の適用対象外である。
よって,海外子会社の役員が現地の裁判所において損害賠償請求を受けた場合であっても問題なく保険金支払対象になる。

第4節 準拠法

普通約款29条はD&O保険契約に関する準拠法について次の通り定める。

(準拠法)
第29条 この約款の解釈およびこの約款に規定のない事項については,日本国の法令に準拠するものとします。

本条も前条の管轄裁判所に関する規定と同様に,保険契約上の権利義務を巡る保険契約者・被保険者と保険会社との間の紛争について適用される規定である。
これにより,約款解釈及び約款上規定のない事項については日本国の民事に関する法令が適用されることになる。
適用される代表的な法令としては民法及び商法中の損害保険に関する規定が挙げられる。これらの法令の定めは強行規定でない限り,D&O保険に適用される約款における定めの趣旨に反しない限度で適用されることになろう。