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弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第3章 債務整理に関する基礎知識

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第3章 債務整理に関する基礎知識
1 多重債務状態の解消方法

(1) 自力で返済する
自力で適法に稼いだお金で借金を全て返済し終えることができるのであれば,これはこれで結構なことであるが,それが不可能というのが多重債務という問題である。
自力では約定の返済を履行し続けることができないというのを前提として問題の解消方法を探るより他ない。
(2) 身内や友人に金銭的に援助してもらう
これは,多重債務問題に対する1つの解決策にはなる。
実際,多重債務状態に陥った子供の借金を全て親が肩代わりして解決するといった事例も多い。
ただし,気をつけなければならないのは,このように他人任せのような形で問題を解決してもらった多重債務者が再び多重債務に陥るケースがけっこう多いということである。
将来二度と多重債務問題を起こさないためにも,ある程度自分も苦しんで反省を深めるという経験が必要であるのかも知れない。
その意味では,多重債務者を援助するとしても,債務整理のための法的手続を取らせるための手続費用や弁護士費用などに限って援助するというという援助方法も考えられて良い。
また,自己破産手続をして免責決定を得れば,それまでの借金の返済義務はなくなるのであるから,身内が金銭的援助をするのであれば,破産手続が終了した後に,債務者のその後の生活再建資金を援助すれば良い。
近い将来の破産が見えているのに,身内からの好意の金銭的援助が,そのままサラ金の返済に回ってしまうのは何とも勿体無い。
(3) 法的な手続に基づいて整理する
法律に基づいた適正な手続により,誰からも法的非難を受けることのない多重債務の整理方法がいくつか用意されている。
ほとんどの多重債務のケースにおいて,このような法的手続に基づく整理を行うのがベストの解決策である。
多重債務に陥った場合は,まずは法的な整理方法を十分に検討してみるのが先決である。
そうした上で,なおも法的手続以外の措置(例えば夜逃げなど)の方が優れるという結論に至るケースはほとんどないはずである。

2 法的な債務整理手続の種類

法的な債務整理手続には以下の通り複数の種類がある。
それぞれにメリット・デメリットがあるので,どの手続を選択するかについては債務の状況等を踏まえて決定すべきこととなる。
(1) 任意整理
裁判所を介さずに,個別に債権者との交渉を行い,分割弁済,将来利息の免除等の合意を得た上で,合意に基づいて返済を行う方法である。
(2) 特定調停
裁判所に申し出て,裁判所を介して債権者との間の合意を形成し,その合意に基づいて返済を行う方法である。
(3) 民事再生(個人再生手続)
裁判所に申し出て,債務の一部免除や分割払いなどを盛り込んだ弁済計画を裁判所に認可してもらい,その計画に従って返済を行う方法である。
住宅ローン付きの住宅を失わなくて済む方法が用意されていることや,破産による資格制限を受けないなどのメリットがある。
(4) 破産
裁判所に申し出て,債務者の全財産を処分して全債権者に公平に分配する手続である。
実務上は,破産手続に引き続いて行われる免責決定を得るのが主目的である。
免責を受けた場合,破産手続後に残った債務(租税債権や悪意の不法行為による損害賠償債務などを除く)は免除される。
つまり,もう借金は返さなくて良いということである。
なお,法律上,次のようなケースでは原則として免責を受けられないことになっている。
・ 財産隠しをした場合
・ 特定の債権者にだけ特別の利益を与えた場合
・ 浪費・ギャンブル等の射幸行為をした場合
・ 前回の破産・免責から7年が経過していない場合
・ 裁判所に虚偽の申告をした場合  など
ただし,上に該当する場合でも例外的に免責が認められることもある。
破産を申し立てる人の中には,分不相応な出費をしたり,ギャンブルをしたために借金を増やしたので免責を受けられないかも知れないというようなケースが結構見受けられるが,実務上は,裁判所に対して誠実に真実を申告すれば多くのケースで免責が認められている。

3 破産のデメリットはあまりない

「自己破産を申し立てる」ということに対して,強い抵抗を示す人も多い。
「破産者になれば人生は終わりだ」というような間違ったイメージを持っている人が多いからだと思われる。
しかし,実際上,多くの人達にとって破産者になることのデメリットはあまりないと言って差し支えない。
破産することの法的なデメリットは,弁護士や税理士になれないなどの資格制限がある(ただし,免責を受ければこの資格制限もなくなる)ことと,一度破産・免責手続を経るとその後7年間は再度破産・免責という手段を取る事ができないことくらいであろう。
破産したとしても戸籍に載ることはないし,選挙権を失うこともない。
破産した場合,官報に氏名と住所が掲示されるが,普通の人は官報を見る機会はないし,破産手続を弁護士に委任した場合,債務者本人が裁判所に出向かなければならないのは1回くらいであるから,周囲の人達に自分が破産したことを全く知られずに済むことも多い。
実際上,現在わが国では年間20万人を超える人が自己破産しているそうであるが,自分の周囲で破産した人を知っているということは少ないのではないだろうか。
破産手続の関係上,各債権者に対しては裁判所から通知が出されるから,自分が借りている債権者には自分が破産したことが知られてしまう。
よって,会社から借金をしている場合には,破産の事実が会社に知られてしまうことになるが,そうでもなければ,裁判所がわざわざ債務者の勤務先に通知を出すようなことはないので,勤務先に内緒にしたままで破産手続を進めることも可能である。
その他,破産すると,いわゆるブラックリストに載せられその後の借金が困難になるということはあるが,これは法的な制裁ではないし,破産でなくても借金が返せなくて債務が焦げ付いた状態になっただけでもブラックリストの対象になるのであるから,ブラックリストに載ることは破産を回避する理由にはならない。

4 ブラックリストに載ることのデメリットはあまりない

債務整理をすると業者のブラックリストに載せられるのが嫌だという人もいる。
しかし,ブラックリストに載らないためには業者の言いなりに借金を支払う必要があり,それができない以上ブラックリストに載せられたとしてもやむをえないであろう。
ブラックリストに載せられたとしても,予想されるデメリットは,今後新たな借金ができないというだけであり,それはむしろ借金生活からの脱却というメリットとも考えられる。
しかも,そのブラックリストは誰でも自由に閲覧できるものではなく,基本的には業者に対して新たな借り入れの申し入れがあった際に,その業者が加盟しているブラックリストを参照するという程度のものであるから,ブラックリストに掲載されているということを自分の周辺の人に知られてしまうという心配はまずない。
また,ブラックリストに掲載されている情報は,登録から7年くらいで消滅するようであり,その後は再び業者からの借金も可能になる。
もちろん,この7年間程度は借金できないわけであるが,7年程度の期間で借金依存体質から脱却できるのであるからむしろ結構な制度であろう。

5 本当の債務額は業者が主張する額よりも小さいことも多い

前述の通り,クレジット・サラ金業者は,利息制限法に定める最高金利よりも高い利息を平然と主張して返済を求めてくるから,本当に法律上の義務をもって返済すべき金額は業者が主張する金額よりも小さいことが多い。

6 過払い金が戻ってくることもある

クレジット・サラ金業者が請求してくる金額は,利息制限法に定める最高金利よりも高い利息を適用したものであるから,請求金額をそのまま長年支払い続けると,法律上の義務をもって返済すべき金額をさらに超えて支払っているというケースが生じる。
業者の側は,これについては債務者から任意に支払われたものだから,貸金業法に基づく「みなし弁済」として有効な弁済であると主張するのであるが,今の裁判実務上はこのような業者の主張はほとんど認められない。
ということは,本来の義務を超えて業者に支払った分については,不当利得であるとして業者に対して返還を求めることができるのである。
実際上も,債務者本人としてはあと50万円ほど債務が残っているという認識であったにもかかわらず,弁護士が調べてみると逆に50万円ほど支払いすぎており,この50万円を業者から取り戻すことができたというようなケースも決して稀ではないのである。

7 弁護士による債務整理の進め方

弁護士に債務整理を委任する場合,まずは相談から始まる。
問題の性質上,債務整理の法律相談については相談料無料としている弁護士も多い。
有料であるとしても30分5,000円+消費税という程度が一般的である。
有料が嫌であれば,最初に電話で相談料を尋ねて,有料であった場合にはその弁護士に相談しなければ良いだけである。
もちろん,有料相談,無料相談を問わず,相談だけ受けて,弁護士への委任はしないということも自由である。
委任しないからといって怒り出す弁護士はいないだろう。
弁護士に委任するとなれば,その弁護士に対して着手金や報酬金を支払う必要がある。
弁護士は弁護士費用のうちの着手金を一括で請求するのが通常であるが,債務整理については問題の性質上弁護士費用の分割払いを認めている弁護士も多い。
弁護士が債務整理に着手して,その旨を各債権者に対して通知すると,各債権者から債務者本人に対する直接の取立て行為は停止する。
その間に弁護士は債権調査を進めて,債務者がかかえている本当の債務額はいくらなのかを明確にする。
債権調査が終了し,債務の全貌が明らかになった段階で,債務者の資力その他の要素を勘案して,どのような手続で債務整理をするか,方針決定することになる。
任意整理ということになれば,弁護士が各債権者と交渉して分割払いなどの個別和解を成立させることになるし,破産や民事再生ということになれば,弁護士が申立書を作成して裁判所に対して申し立てるということになる。
弁護士が債務整理を受任してから債権調査を済ませて債務整理に決着がつくまで数ヶ月以上を要するのが普通であり,その間は債権者からの債務者本人に対する取立ては停止しているのであるから,債務者としては,従来各債権者に対して毎月返済していた金額を,弁護士費用の分割払いにあてることができる。
任意整理や民事再生手続により各債権者に対する返済計画が定まれば,それに従って返済を続けることになる。
この返済手続まで有料で代行する弁護士もいるが,この代行がない場合には債務者自ら計画に沿って弁済することになる。
破産手続を経て免責決定を得れば,もはや借金を返済する必要はないので,債務整理は終了である。
債務整理が終了すると,その後しばらくは借金ができない生活になるので,その間に借金をしなくても良い生活習慣を築くことが肝要である。