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神奈川県横浜市の法律事務所

弁護士津留崎基行(横浜弁護士会)
2005年10月1日

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第1章 問題の所在
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第1章 問題の所在
1 債務整理とはどのような問題なのか

(1) 意義
ここで取り上げる問題は,企業の債務整理ではなく個人の債務整理である。
いわゆる個人の多重債務問題である。
「多重債務」という用語は,一般に自己の返済能力を上回る借金が存在している状態を指す言葉として用いられている。
この問題は,サラ金からの借金やクレジットカードの使用が度を越した場合が典型であることから,「クレサラ問題」などとも呼ばれている。
「多重」というと,数多くの借入先があることをイメージするが,借入先が数多くともきちんと返済できるのであれば問題はないし,逆に借入先が1つだけであったとしても,その借入額が自己の返済能力を超えていれば問題になるわけである。
よって,問題は「多重」な債務という点よりも「過大」な債務という点にあるのだが,問題を抱える多くの人が「多重」な債務を抱えており,過大な債務を抱える人が結果的に多重の債務を抱えてしまうというのがこの問題の1つの顕著な現れであることもあることから,ここでは一般的に広く用いられている用語である「多重債務」という用語を用いることとする。
(2) 多重債務の何が困るのか
多重債務状態に陥り,自己の返済能力を超える負債を抱えてしまうと,いくら返済しても利息に充当されるばかりで元本が全く減らない状況が出現したり,さらには新たな借金をしなくなっても利息によって債務がますます増大する一方となる状況が出現することになる。 そこから先は,債務者が現実にどのようにつらい目にあうのかは多言を要しないであろう。
毎年,借金苦で多くの人々が自ら命を絶っている。冷静に考えれば命を絶つよりも良い選択肢はきっとあるはずだが,多重債務はそのような冷静な判断力すら鈍麻させてしまう。
そこで,何とか多重債務状態を解消する必要が生じる。

2 多重債務の原因

(1) 自己の返済能力を超えた借金
指摘するまでもないが,自己の返済能力の範囲内の借金であれば問題は生じない。
多重債務の原因が自己の返済能力を超えた借金にあることは間違いないだろう。
ただし,以下の通り,現在の法制度やクレジット・サラ金業界の実務によれば,「返済能力を超えた借金」という状態が簡単に生じてしまうという事実を看過してはならないのである。
(2) 業者の利息制限法違反の高金利
利息制限法という法律がある。利息制限法によれば,原則として次の基準を超える金利は法的に無効である。
元本年利
10万円未満の場合20%
10万円以上100万円未満の場合18%
100万円以上の場合15%

ところが,多くのサラ金業者は,公然とこの基準を超える金利を適用して融資を実行している(クレジット会社のキャッシングも同様である)。
上記の利息制限法上の上限金利をよく覚えていただいた上で,クレジット・サラ金業者がテレビ広告やチラシ等に小さい活字で表示している利率を注意して見ていただきたい。
上記を超える利率が当然のように表示されているはずである。
なぜこのようなことがまかり通っているかといえば,利息制限法違反には罰則がないからである。
利率に関して刑事罰を定めている法律として,出資法という法律がある。出資法の上限金利は原則として29.2%であり,出資法の上限金利を越えた利率を適用すると刑事罰の適用がある。
よって,多くのクレジット・サラ金業者は,利息制限法を超え,出資法の上限金利以下の金利ゾーン(いわゆる「グレーゾーン」)で営業している。
(3) クレジット・サラ金業者による過剰融資
クレジット・サラ金業者による過剰融資は,してはならないものとして一応規制されてはいる。
しかし,クレジット・サラ金業界の実務を見る限り,この規制に実効性はないようである。
現状においては,借金しようと思えば,いくつかのクレジット・サラ金会社にあたると,大して収入もないフリーアルバイターや主婦のような立場にある人々が200万円程度の借金を作ることは簡単のようである。
多くの人々が,「審査を経た上で借金できるくらいだから,自分が頑張れば返済は可能なのだろう」というぼんやりとした期待を抱く。
しかし,この期待は容易に裏切られる。
年利25%程度の金利で200万円の借金を作ったらどうなるか。
利息だけで年間50万円を返済しなければならない。
月々の利息の支払いは4万円を超える。
しかも,これは利息の支払いだけである。
月々4万円強を支払っても元本200万円は一向に減らない。
通常は将来の完済を目指して元本も返済するのであろうから,月々の支払額はかなり控えめに言って5万円を超えることになる。
借り入れたお金を費消した後,ある意味で見返りのない毎月5万円超の支出を長期にわたって継続できる人はそれほど多くないはずである。
支払いが利息分にさえ不足するようなことになれば,新たな借金を作らなくても,借金の残高は利息によって雪ダルマ式に自然増加する。
こうなると破綻はほぼ必定である。
(4) みなし弁済規定
前述の通り,利息制限法違反には罰則がないとは言え,制限利息超過部分は民事的には無効であるから,業者の側から超過部分を請求することはできないし,仮に超過部分を払ったとすれば,無効な支払いということで払った分の返還を請求できるのが法律上の原則である。
しかし,例外規定を定める法律として貸金業規制法という法律があり,その43条によれば,債務者が,貸金業者に対して任意に利息を支払った場合には,本来無効なはずの利息制限法を越える部分についても例外的に有効とみなすものとされている。
これを「みなし弁済」という。
つまり,業者の側から強制的に払えと要求することはできないが,借主側が任意に払った場合は有効な支払いであるから,後で借主側から返還を請求することはできないということである。
このみなし弁済制度は,借主側に圧倒的に不利であり,いかにもクレジット・サラ金業界に迎合した法規定であるから,いくら何でも酷すぎるということで,弁護士達が今まで裁判で争った結果,裁判所もみなし弁済が認められる要件を限定するようになったので,今では裁判の場で安易にみなし弁済が認められることはなくなった。
つまり,借主側が法的にきちんと争えば,利息制限法を超える分の利息は支払う必要がないのは勿論のこととして,さらに,過去に利息制限法を超えて支払った額は取り戻すことができるということである。
しかし,クレジット・サラ金業界は,借主側が無知であるのをいいことに,未だに借主が利息制限法を超える利息を支払う義務があるかのような顔をして,本来取り立てることができないはずの借金を平然と取り立てている。

3 多重債務状態においてよく見られる状況

多重債務状態においては次のような状況が見られる。
(1) 放置(自転車操業含む)
借金が自分の返済能力を超えているという自覚がありながら,特段の措置も講じずに状況を放置することである。
返済期限が来た分に充当する目的でよそから借り入れる自転車操業的な借り入れが伴うことも多いであろう。
債権者からの取立てがあまり厳しくないうちは,期間の長短はあれ,多くの多重債務者がこのように状況を放置している期間があるものと思われる。
しかし,放置は問題の先送りで,全く問題が解決しないばかりか,自転車操業的な借り入れにより債務総額が増大したり,返済能力がないのに借り入れを行った行為が不誠実な行為であるとの評価を受け,後日の法的手続の際の足かせになったり,余計に問題が大きくなること必定である。
(2) 夜逃げ
夜逃げの目的は債権者からの取立てを免れることであろうから,住民票を移動させることはできない。
健康保険もあきらめるしかないだろうから病院は自腹になるし,子供がいれば小学校に通わせることもできなくなる。
孤独な世捨て人のような人生を歩みたいと思っているごく一部の例外的人を除けば,夜逃げが多重債務問題の解決につながらないことは明らかである。
(3) ヤミ金に手を出す
ヤミ金(=ヤミ金融)というのは,法の規制を全く無視して営業している金融業者である。
真っ当な金融業者は様々な法律の定めによって規制されており,10日で1割の利息(トイチ)といった金利でお金を貸したり,「金を返さないと家に火をつけるぞ!」といった脅迫行為を用いた取立てなどは行わない(このような行為は違法である)。
しかし,ヤミ金はこのような法の規制は全く無視しているので,10日で3割といった,常識はずれな利息の約定で金を貸したり,脅迫的言辞を用いて取立てを行ったりする。ヤミ金は当局からの取締りを受けると困ることから,自分の足がつかないように債務者に対しては自らの携帯電話番号しか教えないなどの工夫をしている。
通常,ヤミ金に手を出すのは,適法な金融業者がもはや貸付をしてくれない状況に陥ってからである。
適法な金融機関に融資を断られる者には,ヤミ金からの借金を返済する能力がもはやあろうはずもなく,ヤミ金からの借り入れは事態を悪化させるだけである。
(4) 紹介屋にひっかかる
紹介屋というのは,自分では直接融資を行わず,別の貸金業者を紹介して融資を受けさせ,その手数料名下に金員を支払わせる業者をいう。
紹介屋が自ら紹介屋と名乗ることはない。
自ら融資するような宣伝文句で客を集め,客から一応情報を聞き取って信用調査をしているような振りをして,結論として「自分のところでは融資できないが,他を紹介することはできる。」などとして別の貸金業者を「紹介」し,その紹介料を請求するのである。
紹介屋がその「紹介」した貸金業者に対して融資が行われやすくするような働きかけをすることはまずないと言われている。
実際には,融資の基準が甘そうな貸金業者を教えているだけのようである。
とすると,高い紹介料(融資金額の3割から5割とも言われる)を支払うだけ無駄である。
そもそも,働きかけをしているように債務者に伝えながら,現実に働きかけをしていなければ詐欺である。
債務者が「紹介」を受けた貸金業者を訪れ,「紹介」がなされた形跡があまりにもないのに気づき,そこでの借り入れを止めたとしても,既に債務者の自宅・職場などの情報を入手した紹介屋はしつこく紹介料の支払を求めてくることがありやっかいである。
(5) 買取屋にひっかかる
買取屋というのは,客が持っているクレジットカードで換金性の高い商品を買わせ,その商品を客から半値以下で買い取り,さらにこれを転売して利益を得る業者をいう。
自ら融資をする形ばかりの姿勢を見せることもあるようであるが,実際に自ら融資は行わない。
客にしてみれば,一時的には現金が手に入るわけだが,結局クレジットカードの決済において全額を支払わなければならないので,商品購入金額の半値以下でしかその商品を買い取ってもらえなかったとすれば,実質的には元金の100%以上の金利を支払う融資を受けたのと同じことである。
このような状況は,多重債務の状況をさらに悪化させるものであることはもちろんのこと,そもそも換金目的でクレジットカードで商品を購入する行為は不誠実な行為であるとの評価を受け,後日の法的手続の際の足かせにもなる。
(6) 整理屋にひっかかる
整理屋というのは,債務整理を行うと見せかけてその債務返済原資又は手数料名下に法外な金員を支払わせ,実際には債務整理のために有益なことはほとんど行わない業者をいう。
弁護士と提携して,適正・妥当な法的手続による債務整理がなされるかのような外観が作出されていることもあるのでやっかいである。このような弁護士は,発覚次第,弁護士会から懲戒処分を受けるなどの措置が取られているが,後を絶たないようである。
整理屋にひっかかった多重債務者にはお気の毒であるが,多重債務の客観的状況としては確実に悪化していると言うより他ない。